自動車ジャーナリスト川端由美の偏愛的逸品 -Vehicle-

デジモノステーションに関わる識者やスタッフ陣はモノへのこだわりは人一倍強い。なぜ彼らは数多あるものからそれらの逸品を選んで使っているのだろうか? そこには目利きとして、どうしても譲れない想いや選ぶに至ったストーリーがそれぞれある。表面的な価格などに左右されず、選ぶべき人に選ばれた逸品。真に「安くていいもの」とは、彼らのように永きに渡り、これしかないと愛し、使い続けられるからこそ生み出されるのだ。ここに登場する逸品たちのように、ぜひ読者諸兄にも自分だけの偏愛的逸品を見つけてほしい。

GenreVehicle

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  • Name :

    川端由美

    Occupation :

    自動車ジャーナリスト

    工学修士。エンジニアとして勤めた後、自動車専門誌の編集記者に転身。現在は、自動車の次世代技術を得意とするジャーナリスト兼戦略イノベーション・アドバイザーの”パラレル・キャリア”。内閣官房などの委員を歴任。

精神的にも、物理的にも
私を自由にしてくれる一台

“私物”と言われて、真っ先に思い浮かんだのがクルマだった。「女性らしさ」のカケラもないチョイスだとは思うけれど、仕事で書くのは新製品のことばかりだし、女友だちにはウケない話題だし、男性にそんな話をするとモテないんじゃないかと思うから、プライベートではその話題に触れないようにしている。それだけに、普段、筆者の”女らしくない記事”を支持してくれているデジモノの読者なら、愛車のことを語っても受け入れてもらえるんじゃないかと思ったからだ。

「ポルシェ『911』に乗ってる」といえば聞こえがいいかもしれないが、ツウが喜ぶ空冷式ではないから、いわゆる骨董品的な価値があるわけではない。さらに2006年型と、製造から13年以上が経つため増税の対象だ。それでも、気に入っている理由がある。実は、中古で手に入れた時の価格が550万円と、頑張れば手が届くギリギリの線にあったことに加えて、水冷エンジンになって以降の「911」は、比較的、メインテナンスも手がかからない。

要は、ライターなどという日銭を稼いで暮らしている身分の私でも、なんとか維持できる範囲にある、ということだ。

ドイツのナショナルカラーであるシルバーのボディ色に6速マニュアル・トランスミッションという組み合わせは、クルマ好きにはたまらない。…とカッコつけてみたものの、正直にいえば、この当時すでに、日本ではポルシェですらオートマの方が人気だったから、マニュアルというだけで売れ残っていて格安だったのだ。

燃費はお世辞にも好いとはいえないが、ポルシェの真骨頂である水平対向エンジンをマニュアルで操ることができるのが楽しい。さらに近年の燃費規制の強化に伴って、ポルシェも例外なくターボ化されたから、自然吸気の高回転型エンジンというのも、これまたクルマ好きにとってはたまらない。もちろん、どの時代のポルシェにも共通する美点であるボディの剛性感の高さは秀逸で、カーブを曲がるときには、ビシッとした金属の塊に乗っているかのような信頼感があるのも頼もしい。

…と、つい、オタクっぽいことを並べ立ててみたが、最後に一つだけ”私物”としての思い入れを加えると、このクルマに乗っていると、精神的にも物理的にも自由になれる気がする。クルマが好きなんてモテないから女らしくしなきゃって思うイジケからも、もっといいクルマが世の中にあるんじゃないかって探す気持ちからも、解放されるからだ。

  • No.04
  • Product Name :911(2006年型)Type: クーペ
    Brand: Porsche
    Price: 550万円(購入時価格)
  • photo下城英悟(GREEN HOUSE)
  • design一ノ瀬基行(LO&MARM)