ミリタリーウォッチ直系のレトロなたたずまい。ハミルトン『カーキ フィールド メカ』で男を上げる

 

ついに復活となったカーキのベーシックモデル

ハミルトンの『カーキ フィールド』は、1940年代、より正しく言うと、’60年代のミリタリーウォッチに範を取った実に好ましい実用時計だ。今やラインナップは数えきれないほどあるが、タフに使うことを考えれば、個人的にはクォーツか手巻きを選びたい。とりわけ『カーキ フィールド』のクォーツモデルは、実に小気味よい実用品で、着けている人はよほどの時計好きに思える。

そんなカーキに、ツボを押さえた新作がリリースされた。『カーキ フィールド メカ』の日付なし版だ。ベースモデルからデイト表示を外し、’60年代から’70年代に使われた文字盤と針を復活させただけだが、実に雰囲気が良いのだ。いかにもミリタリーというだけでなく、レトロな見た目を持つ本作は、時計好きに限らず、広い層に受けるのではないか。

カーキ フィールド メカの日付なし版。合わせて文字盤と針も、昔風のデザインに変更された。見た目は1970年代のモデルそのままだが、丈夫なサファイア風防を持つほか、防水性能も改善された。またストラップも良質である。手巻き。SSケース。5気圧防水。

アメリカに本社のあったハミルトンは、’40年代から、信頼性の高い、高精度なミリタリーウォッチを作っていた。その中でもとりわけ著名なのは、’60年代以降に作られた、カーキの前身にあたるモデルだ。これは同時代に作られた多くのミリタリーウォッチと異なり、「高級品」と位置付けられていた。

1940年代、ハミルトンは極めて良質なミリタリーウォッチを作っていた。左から、航空時計として知られるA-11、標準的なミリタリーモデル、そしてアメリカ海軍向けの“BUSHIPS”モデル。名機Cal.987はこれらの時計に高い精度をもたらした。

ベトナム戦争のころ、アメリカ陸軍にはミリタリーウォッチに関するふたつの規格があった。’62年に制定された「MIL-W-3818B」と、’64年の「MIL-W46374」である。簡単に言うと、前者は高級品、後者は使い捨てだった。

ベトナム戦争の悪化に伴い、ミリタリーウォッチの規格は後者に統一されたが、以降もハミルトンは、決して使い捨てのミリタリーウォッチには手を染めなかった。その証拠に、ケースはプラスチックではなく丈夫なステンレスだったし、載せているムーブメントの多くも、安価な7石ではなく、高級な17石仕様だった。また裏蓋を開けることで、ムーブメントの修理も可能だったのである。

このモデルは’80年代に一度生産中止になるが、デザインに魅せられたイタリアのディーラーが、ハミルトンに再生産を依頼。復活した『カーキ』は、イタリア市場、続いて日本市場で爆発的な人気を得て、ハミルトン人気の立役者となった。

’80年代に復活したこの『カーキ』は、事実上、’70年代に作られたミリタリーモデルの焼き直しだった。つまりケースの作りも、載せているムーブメントも、かつてのミリタリーウォッチそのままだった。以降ハミルトンは、カーキコレクションを洗練させていったが、その一方で、ベーシックな初代モデルを求める声も大きくなっていた。かくいう筆者もそのひとりだ。

今のハミルトンほど出来は良くないが、シンプルな初代カーキには、ミリタリー由来の質実剛健さが色濃く残っていたのである。

そんな声にこたえたわけではなかろうが、2017年、ハミルトンは、初代『カーキ』を思わせるベーシックな手巻きモデルを発表した。ケースサイズは33㎜ではなく38㎜に拡大されたが、文字盤のデザインは昔に同じだし、搭載するムーブメントも、かつての『カーキ』に同じETAの2801(名前は変更された)だ。

加えてケースの仕上げも、サテンやポリッシュ仕上げではなく、ミリタリーウォッチらしいブラスト仕上げだ。正直、日付表示を外して、文字盤と針を変えただけで、これほど雰囲気が変わるとは思ってもみなかった。

もっとも、現行品だけあって、細かいディテールは大きく改善された。例えば風防。かつてはプラスチックだったが、割れにくく、傷つきにくいサファイアに変更された。また文字盤や針の仕上げも、昔のものと違ってきちんと色が載っている。搭載するETA2801も、’70年代や’80年代のものと異なり、かなり精度が出るようになった。加えて言うと、かつてのモデルと異なり、リュウズのガタも全くない。

このモデルの大きな特徴が、1970年代風の文字盤と針だ。それに加えて、文字盤と針の夜光塗料も、退色したようなクリーム色に変更された。かつてのモデルと異なり、文字盤の印字に歪みは全くない。

大量生産されたミリタリーウォッチ風ながら、今使える実用品にアップグレードされた、“新しい”ハミルトンの『カーキ』。筆者はたまたま、ハミルトンの原宿ブティックで見かけて、思わず衝動買いしてしまった。

永遠の定番といえる、ハミルトンの『カーキ』。時計好きでなくとも、一度は手にすべきモデルに思う。とりわけ、このモデルのたたずまいは、何物にも代えがたい。


Hamilton
Khaki Field Mechanical
価格:5万7240円
ハミルトン/スウォッチ グループ ジャパン
03-6254-7371

広田雅将(ひろたまさゆき):1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

『デジモノステーション』2018年2月号より抜粋。

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