時計を手にするきっかけなんて、いろいろあっていいじゃない! カルチャーな腕時計たち Vol.16 カール・コックスとゼニス

2020年1月13日〜15日、LVMH傘下の3ブランドが新作時計を披露する、LVMHウォッチウィーク「ドバイ 2020」が開催された。傘下のブランドのひとつであるゼニスもこのイベントに参加し、2020年の新作第1弾としてまずはレディスにスポットを当てる一方、メンズ・コレクションでも意欲作を発表。なかでもサプライズだったのが、ダンスミュージック界の重鎮として知られるDJ、カール・コックスとのコラボレーションモデルだ。

30年以上にわたってシーンの最前線で活躍し続けるレジェンドDJ

ダンスミュージック、とりわけテクノやハウスのファンであればカール・コックスの名前を知らない人はいないだろう。1980年代の中頃にDJのキャリアをスタートし、マッドチェスター・ムーブメントの中心となった「ハシエンダ」や、1990年代のハウスシーンを牽引した「シェリーズ」をはじめとする数々のイギリスのクラブで活躍。1998年から1999年にかけてはBBC ラジオ1の「エッセンシャル・ミックス」でグローバル・レジデントDJを務めるとともに、自身のレーベルIntec Recordsを設立し、数多くのリミックス/ミックスCDをリリースした。

2001年からはイビザ島にある有名クラブ「Space Ibiza」で15年にわたってレジデントDJを務めあげ、その後はオーストラリアでテクノ・フェスティバル「Pure」を開催。2020年7月で58歳を迎えるが、今なおその活動は精力的で、ダンスミュージック界における「伝説」や「アイコン」と称するにふさわしい人物だ。しかしなぜ、カール・コックスとゼニスがコラボレートすることになったのか?

DJとしてはもちろん、プロデューサー、リミキサーなど多彩な仕事ぶりで知られるカール・コックス。1980年代にDJとしてのキャリアをスタートし、当時、3台のターンテーブルを用いたことで一躍注目を集める。現在もトップDJとして活躍するレジェンド。

150年以上にわたって挑戦的であり続ける時計ブランド

ゼニスは、若干22歳だったジョルジュ・ファーブル=ジャコが1865年にスイスのル・ロックルで創業した時計メーカー。時計の開発から製造までを一貫して行う“マニュファクチュール”というコンセプトをこの当時すでに構築しており、それから現在に至るまでこのル・ロックルの地で時計製造を続けている。

これまでに取得した特許は300に上り、開発したムーブメントの数は600超。しかも2333もの受賞記録を打ち立てるなど、ゼニスは150年以上の歴史において圧倒的な開発力を示している。そのなかでも最もエポックメイキングな出来事といえば、1969年に発表された「エル・プリメロ」だろう。これは毎時3万6000回という振動数を実現した世界初の自動巻きクロノグラフ・ムーブメントで、高振動によって1/10秒単位の計測が行えるのみならず、重力や手首の動きなどから生じる歩度を減少させ、安定した精度を実現した革新的なものだ。

1969年に誕生した世界初の高振動自動巻きクロノグラフ・ムーブメント「Cal.3019 PHC」。これを搭載したのが最初の「エル・プリメロ」(写真右)で、インダイアルを色分けすることでデザインの調和と視認性を両立させた。

だが、1969年は世界初のクォーツ・ムーブメントが発表された年でもある。クォーツの台頭によって時計産業は危機に陥り、1975年にはゼニスも当時のオーナーより「機械式時計のすべての生産を停止し、機械や道具類は破棄せよ」と通達されたのだ。

この通達に猛反対したのが、エル・プリメロの開発に携わったシャルル・ベルモ。しかしオーナーの決定が覆らないことが分かると、彼は150種類もの工具類や部品、そしてエル・プリメロの製造工程を描き写し、工房内の別の建物の屋根裏に隠したのだ。これらが再び陽の目を見ることになったのは、時計業界が機械式時計の復興に向けて動き出した9年後のこと。「機械式時計が再び脚光を浴びる日が必ず来る」と信じて疑わなかったシャルル・ベルモの行動力が、ゼニスと機械式時計の文化を救ったのである。

ジョルジュ・ファーブル=ジャコとシャルル・ベルモ──ふたりに共通しているのは常に理想を追求してチャレンジし、信念を貫いた姿勢で、それはゼニスのスタンスでもある。一方のカール・コックスは音楽を通じて常に理想を追い求め、ダンスミュージックの世界で絶大な影響力を持つに至った。コラボレートの根底にあるのは、このような、両者の共通するスタンスだ。

革新的な技術と意匠が融合したコラボレーションモデル

こうして誕生したのが「デファイ エル・プリメロ21 カール・コックス エディション」だ。ベースとなったのは、2017年に誕生し、ゼニスの旗艦コレクションのひとつになっている「デファイ エル・プリメロ21」。1/100秒単位の計測を可能にし、クロノグラフ針が1秒でダイアルを1周するダイナミックな動きを特徴とする時計だ。

そのコラボレーションモデルはケースとベゼルをブラックカーボンに変更し、レッドのコーデュラ・ストラップとのコンビネーションが目を惹く。さらに、ベゼルとストラップのステッチにはスーパールミノバを塗布しており、暗闇で光る様子はクラブのフロアをイメージさせる。また、ダイアル9時位置のスモールセコンドがヴァイナルのデザインになっている点も、DJとのコラボらしい遊び心が感じられる。

ゼニス
デファイ エル・プリメロ21 カール・コックス エディション
226万6000円

ブラックカーボン製ケースにオープンワークダイアル、レッド“コーデュラエフェクト”ストラップの組み合わせが印象的なコラボレーションモデル。ムーブメントには1/100秒計測が可能なエル・プリメロ9004を搭載。3万6000振動/時の振動数に加え、パワーリザーブは約50時間を確保。世界限定200本。自動巻き、ブラックカーボンケース、10気圧防水、ケース径44mm。

ベゼルとストラップのステッチにはスーパールミノバを塗布。暗闇で光る様子はクラブを想起させる。

カール・コックスも今回のコラボレートをエキサイティングなものだと感じているようだ。このモデルが発表された2020年1月、彼は次のようにコメントしている。

「私は音楽に対する情熱を世界中の人々と共有できることをとても幸せだと感じている。私たちには必ず、ビートを感じてダンスを踊る、内なるパワーが宿っている。私の仕事はそのエネルギーを解放し、ダンスフロアの人々を一体にすること。同様にゼニスもまた、時計製造技術の研鑽に努め、自らのイノベーションを世界と共有している。だからこそ、高振動のビートに乗って、時計を舞台に彼らとコラボレーションすることはとても自然なことだと感じているよ」

3万6000振動/時のハイビートには、時計に、音楽に対する、両者の情熱や信念が刻まれているのだ。

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