「夜のお店」=クラスター発生源と決めつけないで! 万全なコロナ対策を施したニューノーマル接待店に行ってみた

新型コロナウイルスはさまざまな経済活動に影響を与えていますが、その中でも特に槍玉に挙げられているのが「夜の街」。なかでも「接待を伴う」店に対する風当たりが強くなっています。東京の新宿や池袋、鹿児島などの店でクラスター感染が発生したのだから、まあ当然と言えば当然ですね。でも、夜のお店だってそこで働き、生活が成り立っている人はたくさんいるし、何らかの価値を見出して通っているお客もたくさんいます。まったく必要のない業態って、わけではないと思うのです。

夜のお店で生計を
たてている人も大勢いる

そんな中、六本木や銀座で「接待を伴う夜の店」を運営するミズ・コミュニケーションより、独自対策を施して店舗を6月22日に再開するとの連絡が入ったので、ちょっと覗いてきました。同社は、現役女子大生が働くキャンパスカフェ「BADD GIRLS(バッドガールズ)」、出会いラウンジ「encounter」(エンカウンター)、高級ラウンジ「FUSION(フュージョン)」の3形態の店舗を持ち、六本木・赤坂・銀座で合計8店を運営していますが、それら全ての店舗を3月30日から営業を自粛していました。今回、全ての店で同じ対策を実施しての再開です。

まずは「encounter」を訪ねてみました
来店時にはお客の熱を計ります。今や見慣れた光景ですね
お店のドアをくぐってすぐのところにあるカウンターバーには透明なシールドが並んでいました。この意味は後ほど分かります

これでもかという
コロナ対策を講じる夜の店がある

お客の入店時の手の消毒、検温は当然のこと、政府から要請されている入店時の連絡先の届け出を徹底、お客がトイレに行く際にはマスクの着用、利用ごとにトイレのドアノブの消毒、お客が帰ったあとのテーブル・チェアの消毒と、ここまではよくある対策。これに加えて、独自の対策をいくつか実施しているとのこと。

まず、男性・女性全スタッフに対して抗体検査を実施しています。国際抗老化再生医療学会推奨・FDA(米国食品医薬品局)およびCE(EU安全性能基準)認証を受けているLepuメディカル社の試薬キットを使ったもので、指先の血液を採取して約15分で結果が出ます。抗体検査は主に自覚症状のない人に対して行うもので、陰性、陽性、過去に新型コロナウイルスに罹患済みで治癒している可能性が高い(抗体を持っている可能性)、ということが分かります。この検査の結果、ミズ・コミュニケーションでは陽性が出たら即出勤停止・出入り禁止にしているとのこと。なお、男性客に対しても、希望者には4000円にて試薬キットを提供するそうです。

抗体検査は日本ではまだデータの蓄積が不十分なため、その有用性は確立されていないので、PCR検査のように新型コロナウイルスの確定診断に用いることはできません。しかし、精密検査前の一つの判断材料として導入している医療機関が増えています。お店のスタッフ全員が抗体検査を受けているということは、一定の安心感を得られるのではないでしょうか。

また、エンカウンターは女性会員と男性会員の大人の出会いをプロデュースするジャズラウンジで、いわゆるキャバクラのようなシステムではなく、女性会員は普段は企業などで働く一般女性。男性会員と女性会員のプロフィールを照会して合いそうな二人を店側がマッチングする仕組みで、その後は大人のお二人におまかせ、というもの。つまり、女性会員は一般客という立場ですが、同店では当面は無料で女性会員にも抗体検査を実施するそうです。

未来感漂う透明な繭の中から
女性に語りかける

ユニークなのが、独自に開発したプロテクトベールとプラスチックマスク。プロテクトベールは天井からぶら下げた透明な筒状のシールドで、男性は全員この中に入ることになります。中に入ってみると、自分の声が多少反響するものの、外の音はよく聴こえ、透明なので圧迫感はありませんでした。もちろん、中の声も外からよく聴こえます。女性との距離感を少し感じてしまいますが、こんな時期なのでそもそもが密着禁止なので、これくらいは我慢ガマンです。むしろ、2メートル離れるよりはずっと密着感があるし、横に座れるので女性の体温を感じることができるし、マスクするより話しやすいし、飛沫を基にせずにお酒も飲みやすいので、これはなかなか良いシステムかもしれません。

独自に開発したプロテクトベール。中に入ると自分の声がちょっと反響して聞こえますが、外の人との会話は通常の音量で可能です
プロテクトベールを使用して女性と会話しているイメージをお店の人に再現してもらいました。プロテクトベールにより、2m離れずに隣に座って会話が楽しめます
入り口のカウンターにあった「クリアシールド」はこのように使います。左右および前方への飛沫を防ぐ役割で、カウンター用に開発しました

一方、プラスチックマスクは女性スタッフおよび女性会員全員が装着するもので、完全に透明なので口元の表情がよく分かります。一般的なマスクは顔の半分を隠し、飲食店でよく見られるマウスシールドは白いプラスチックの台座があり無粋。マスクのある日常に慣れてしまうと、口元を見ることができることがとても新鮮に思えます。「目は口ほどの物を言う」の反対で、これほどまでに口元には表情があること、色気があることに驚かされるのです。

写真右がプラスチックマスク、左は抗体検査キット
口元を隠すものがなく、表情が読み取れてGoodです

なおこのプラスチックマスク、ちょっと横にずらせばお酒を飲んだりおつまみを食べたりできるので、居酒屋でも使えるのではないでしょうか。フェイスシールドは頭に圧迫感があるし曇るしカッコ悪いしで使う気になれないけど、このプラスチックマスクは男同士の飲み会でも使ってみたいと思いました。

プラスチックマスクは首に引っ掛けているだけなので、簡単に回すことができます。食べるときだけくるっと回してすぐに元に戻せば、食べながらの会話もできそう(行儀悪いですが)。これ、居酒屋でも使えそう

このほか、シャープのプラズマクラスター空気清浄機を各店5台導入して常時稼働していたり、空気中のウイルスを不活化するとされている大阪府立大学放射線研究センターが開発した「コロナクリーナーF」を各店に10台ずつ設置したりと、全部で10のコロナ対策をしているとのことです。

シャープのプラズマクラスター空気清浄機を5台導入してフル稼働
空気中のウイルスを不活化するとされている「コロナクリーナーF」も10台導入
各種のコロナ対策を施したうえで再開した「encounter」では、男女会員が隣同士で会話を楽しめます

教科書代と就活の勉強に
「夜のお店」がないと困る

「大学の授業料は親が出してくれているのですが、教科書代や定期代、洋服・化粧品など学校に通うために必要な他のものは自分で出さなければいけない約束なので、今回のコロナによる休店は本当にキツイです」。BADD GIRLSで働く現役女子大生のA子さんは、そう話してくれました。「ここが自粛になったときに他にアルバイトを探したのですが、飲食や販売系のお店は休業ばかりでほとんど求人がありませんでした。地方出身の同級生の中には、生活できないので実家に戻ろうとしたけど、“帰ってくるな”と親から言われて途方に暮れている子もいます」。A子さんの場合、教科書代や生活費は親から“借金”という形で出してもらっているそうですが、コロナの影響で親も収入が激減し、子どもへの仕送りに苦労しているケースもあるとか。とはいえ、他府県間の移動が禁止されていたので実家に帰ることもできない。八方塞がりだったそうです。

現役女子大生との会話が楽しめる「BADD GIRLS」
「BADD GIRLS」でも男性客はプロテクトベールに入り、女性スタッフはプラスチックマスクを装着します

男性スタッフは社員なので自粛休業中も生活できる水準の給料を支払っていましたが、接客担当の、いわゆるフロアレディは時間給のアルバイトのため、休業中の給料は一切支払われていません。これは夜のお店に限らず、一般的な店舗でも休業中のアルバイトスタッフは無給がほとんどです。アルバイトで生計をたてている人にとって、今回のコロナ自粛は本当に死活問題なのです。

「再開して本当に良かったです。ウイルスに対する不安があったのですが、お店のほうでここまで徹底して対策を施してくれているので、安心して働けます」。お店に来るまでは、飲食店にあるような透明な衝立を作っただけかと思っていたけど、男性客をすっぽり覆うプロテクトベールを見て、絶妙な密着感を保ちつつ飛沫を防ぐ仕組みに安心したとのこと。「この仕事をしていると、普段の学生生活では決して出会うことのない人達と会えて、自分の知らない世界の話、就職活動に活かせる話をたくさん聞くことができて本当に勉強になります」。六本木という場所柄、ITベンチャーの経営者などIT関連のお客も多く、たくさんの知識を吸収できてとても面白いと笑うA子さん。

「BADD GIRLS」の店内はプロテクトベールだらけで一種異様ですが、これもお客および働くスタッフの安全安心のため

学業、生活のためだけでなく、将来の夢も広がる「夜のお店」。筆者は引っ込み思案で口下手で若い女性が苦手なために、こういうお店にはとんと縁がありませんが、こんな健気な話しを聞いていると、応援しちゃおうかな、通っちゃおうかなと思ってしまいます。あれ?思う壺?まんまと罠にはまっている?

現役女子大生が笑顔でお出迎えしてくれる「BADD GIRLS」(写真はイメージです・笑)
帰るときにお会計する場所もプロテクトベールで飛沫防止

BADD GIRLS六本木店によると、コロナ自粛の前は多い日で1日あたり100人ものお客が来店していたそうですが、再開後(取材は6月22日の再開から3日目でした)は3割以下で、特に遅い時間帯はほとんど来店がないそうです。一方で、女性スタッフも自粛期間中に他店に移ってしまったり(自粛しない店舗がいくつか存在したため)、地方の実家に帰ってたりして減ってしまったそうです。「コロナ禍以前は女性スタッフの採用は順調でしたが、今後は採用にも不安が残ります」(店長)。夜のお店がやり玉に挙がる中で、女性が働きづらくなる可能性が出てくるわけです。六本木のテナント料の相場は、ワンフロア100万円~200万円ほど。自粛中ももちろん家賃は払い続け、再開後も売り上げに関係なく固定費は出ていくわけです。女性スタッフも集まりづらい、そうなるとお客も減ってしまう、という負のスパイラルに突入していくことになります。

ここ最近、スタッフに積極的にPCR検査を受けさせるお店が増えています。「夜のお店」すべてを悪とするのではなく、ガイドラインを遵守し、対策を実施しているニューノーマルなお店を選んで、節度をもって夜の街を楽しみましょう。だって、自粛自粛ばかりでは息が詰まって業務効率が落ちるし、経済も回せないし、健気な女子大生も応援できませんから(笑)。

Text by 近藤克己