トラベルプロデューサー・堀真菜実の
本当は教えたくない魅惑のニッポン秘境ガイド
水の都、島原。火山がもたらす恵みを紡ぐ町。
「水の都」と聞くと、イタリアのヴェネチアを思い浮かべる人が多いだろう。しかし、ここニッポンにも、古き良き「水の都」があることをご存知だろうか。
今回の舞台は、長崎県島原市。島原、と聞いてまず思い浮かんだのは、歴史上の「島原の乱」だった。江戸時代にキリシタン文化が栄えた場所だったなあ、くらいのイメージをぼんやりと持って町を訪れ、水とともに生きる人々に心打たれた。
古くから火山活動の影響を受けるこの地域は、1792年の雲仙岳噴火による地殻変動で、町のあちこちから地下水が湧出するようになった。現在、市内にはおよそ60箇所の湧水スポットがあるーー道端にはもちろん、スーパーマーケットの前、あるいはアーケード街の中にまで。地元の人が頻繁に立ち寄り、調理用にタンクで持ち帰ったり、仕事前にボトルに汲んで行ったりする姿が印象的だ。島原の人にとって湧水は、観光向けの特別なものではなく、暮らしの一部なのだ。もし島原へ足を運んだなら、五感で湧水 を堪能するのがこの土地らしい楽しみ方だ。

五感で味わう 島原流湧水の巡り方
飲むだけでなく料理でも味わう
島原の水は甘みがある軟水で、湧きたてを飲んで美味しいのは言うまでもないが、湧水を使った料理の味も一段と引き立つ。例えば、湧水で炊いたお米は格別だ。湧水スイーツ「かんざらし」も外せない。黄金色のシロップに小ぶりの白玉が浮かぶシンプルなデザートながら、生地にもシロップにも湧水を用いた、島原ならではの逸品だ。

湧水路が作り出す町並みを眺める
特に湧出量の多い市の中心街は、「鯉の泳ぐまち」とも呼ばれ、その名の通り、張り巡らされた水路に色鮮やかな鯉がいきいきと泳ぐ。また、かつて城下町であった島原には武家屋敷が残るエリアがあり、当時の水路も美しく保たれている。江戸時代にタイムスリップしたような風情だ。市内のどこを歩いても湧水が景観に溶け込んでおり、住民が水に関わるものをいかに大切にしてきたかが感じ取れる。

せせらぎを聞き水の香りを嗅ぐ
明治後期に建設された「湧水庭園 四明荘」は、1日に3000トンもの湧出量のある池を生かした庭園が特徴だ。屋敷の二面が池の上に張り出した造りで、縁側に腰掛けると真下に池が広がる。水があまりに透明なため「鯉が宙に浮いている」と海外でも話題になったとか。豊かな湧水のせせらぎと澄んだ水の香りにも癒やされる。

マイナスイオン溢れる、旅の休息スポットだ。
温泉を通じて身体中で触れる
湧くのは水だけではない。天然の炭酸ガスを含む良質な温泉も豊富な島原。足湯、インフィニティ温泉、体中にシュワシュワと炭酸泡がつく高濃度炭酸泉などから、お気に入りを見つけたい。

私が最も驚いたのが、今なお残る、共同の”洗い場”の存在だ。湧水が溢れる洗い場には、水を大切に使うためのしきたりがあり、「食品」「洗濯」など用途に応じて区画分けがなされる。近隣の住民はこれを守りながら、水を通して緩やかに繋がっているようだ。
実際に歩いてみて感じた島原の魅力は、単にその豊かな湧水量でなく、町を歩くだけで人々の日常の心が伝わってくることだった。火山の恩恵を丁寧に紡ぐ生活様式に触れ、湧水のマイナスイオンを浴びて、身も心も澄み渡る。きらびやかな観光地とは違った、繊細な感動の連続だ。

さらに、島原をより楽しみたいなら、住民の日常の足でもある島原鉄道でのアクセスがおすすめだ。「日本一海に近い駅」大三東駅のホームは、柵一つ無く、まるで電車が海上を走っているような錯覚に陥る。
一段と暑くなる季節。湧水溢れる「水の都」に涼みに行かれてはいかがだろう?
宿泊 ・ 体験したい方はこちら :
島原温泉 ホテル 南風楼(なんぷうろう)
〒 855-0802
長崎県島原市弁天町2-7331-1
☎ 0957-62-5111
https://www.nampuro.com/
text : 堀真菜実
新しい旅を作るトラベルプロデューサー。弾丸世界一周、廃校キャンプなど手掛けるツアーは即日満席。観光局・自治体へのコンサルティングやメディア出演で活躍中。