手元に置いておきたい一冊。ファイナルファンタジーのドット絵に特化したアートブック『FF DOT.』レビュー

ファイナルファンタジー(FF)のファミコン~スーパーファミコン時代を彩った“ドット絵”の数々が、一冊のアートブックになった。『FF DOT. -The Pixel Art of FINAL FANTASY-』は、懐かしさとドットアートの魅力を再発見できる一冊だ。

『FF DOT. -The Pixel Art of FINAL FANTASY-』(スクウェア・エニックス/価格:3500円+税)

本書では、キャラクター、モンスター、背景など、FFシリーズの世界観をドット絵でつむいだ時代のグラフィックをアートとして紹介。3D CGとポリゴンの時代を経て、スマホゲームなどの人気とともに今再び見直されているドット絵をじっくり堪能することができる。

この『FF DOT. -The Pixel Art of FINAL FANTASY-』、FFシリーズのドット絵の生みの親であるCGデザイナー/アートディレクター=渋谷員子へのロングインタビューも収録するなど、特にFF初期作品のコアファンにとっては「こういうのを待ってた!」と思える内容。筆者もその例外ではなく、これを興奮気味に手に取りつつ、さっそくページをめくっていくことにした。

情報量が限られているからこそ面白い、ドット絵の世界を堪能

『ファイナルファンタジー』(第1作)から順を追って、印象深いドット絵が次々に登場。各ページの隅には登場作品やキャラクター名などのデータなどが小さく記載されている。ここでは、「ドット絵に使われているピクセル数・色数」のスペックが細かく掲載されているのが面白い。わずか3色のドット、16×24ピクセルで数多くのキャラクターと動きを表現したファミコン時代のドット絵。この16×24ピクセルが1ページいっぱいのサイズで印刷されているのもなかなかのインパクトだ。

なお、本書ではほぼ全編にわたり解説文などが付いておらず、かわりにページの許す限りグラフィックを整頓して掲載。さながら“ドット絵だけを展示した美術館”のように楽しめる。

ドット絵のキャラクターは立ちポーズだけではなく、倒れた状態(戦闘不能)などのグラフィックも集められている。戦闘不能だけずらりと並べるとなんだかシュールでかわいい。

フィールドマップで活躍する船や飛空艇などのグラフィック。これらはなんと16×16ピクセルでそれとわかるよう表現されているからすごい……。まさに努力と工夫の結晶だ。

『ファイナルファンタジー』(第1作)で最初に制作されたという街のグラフィック。従来は“囲い”だけで表現されることが多かった街の建物に“屋根をつけた”のが本作でのチャレンジとなっている。

特徴的なダンジョンの数々も。『ファイナルファンタジーIII』のクリスタルタワーのドット絵は……切り抜いて組み立てよう!?的な演出が。(特にキリトリ線とかが付いているというわけではない)

そして思わず「おぉっ!」と声が上がったのが、画面の選択肢を指先で示す「カーソル」コレクション。FF第1作の時点で基本形は完成していた。

さらに、歴代FFシリーズの名場面も要所要所で挿入される。第1作のオープニング画面、“演出で泣かせる”FFはここから始まった。

『ファイナルファンタジーIV』のラストバトルは、ゴルベーザの名台詞「いいですとも!」とともに掲載されているのがニクい。

スーパーファミコンの時代になると、依然としてピクセル数は限られているものの、色数が増えたことで表現の幅がかなり広がっていることがわかる。なお本記事の冒頭にも掲載している、『ファイナルファンタジーV』全キャラ・ジョブのドット絵コレクションは本書の目玉のひとつとして挙げたい名作!

『ファイナルファンタジーVI』のメニュー画面などで印象的だったこれらのグラフィックは、天野喜孝による各キャラのイラストをドット絵で精密に再現したもの。

『ファイナルファンタジーVI』ラスボスの巨大なグラフィックは見開きいっぱいで掲載(次ページではさらにどアップにした状態で掲載!)。RPGのラスボスといえば、ゲーム発売当時の攻略本などでは秘密の存在であり、それを今こうしてじっくり堪能できるのは感慨深い。

グラフィックが3Dに移行した『ファイナルファンタジーVII』以降のキャラクター。これらはなんと、FFシリーズに第1作より携わるドット絵の匠・渋谷員子が本書のために描き起こしたものが掲載された。見慣れたキャラたちがデザインの“引き算”でドット絵になった姿は新鮮で、「なるほどね…!」とうなずきながら楽しめる。

そして巻末には、渋谷員子へのロングインタビューが。アニメ『機動戦士ガンダム』のキャラクターにハマってセル画の模写までやっていたという中学生時代から、スクウェア入社秘話、FFシリーズはもちろん『聖剣伝説』『サガ』への関わり、ドット絵の仕事がなくなった時代のことなどなど……とにかく興味深い話題が多い。

ドットにこだわった上質な装丁にも注目

本書のボリュームは288ページ、厚みも25mmというなかなかの豪華本だ。サイズはやや特殊なB5変形判で、かつてNTT出版から発売された『ファイナルファンタジーVI ザ・コンプリート』とほぼ同じ大きさ……と言えばマニアには伝わるだろうか。

シンプルなドットとモノトーンにこだわった上質な装丁にも注目してほしい。カバーや帯などを使わず、表紙のドットは凹凸のあるタイルで表現されている。

本書の内容に関して欲を言えば、(ファミコン時代の紹介にページを多く割いているためか)後半のスーファミ時代のドット絵の掲載ボリュームはやや物足りない部分もある。しかし本書はデータを網羅することが目的ではなく、ドット絵をアートとして再検証することの存在意義が大きく、そこを踏まえて手にすればきっと満足度の高い一冊となってくれるだろう。

関連サイト

スクウェア・エニックスによる紹介ページ