“身の丈買い”を実践する時計ライター・竹石祐三が考える 腕時計で手に入れる、新しい生活様式

僕らを取り巻く状況は1年前とはすっかり変わってしまったけれど、「新しい生活様式」なんていうフレーズを押し付けられるまでもなく、むしろ僕らはこの状況下で自分たちなりに新しい楽しみ方を見つけ出し、そんな生活にぴったりなプロダクトを選び直そうとしているはずだ。それは腕時計だって同じこと。仕事はリモートワークにシフトし、旅行に行くことだってままならなくなってはいるが、だからこそ「仕事用」とか「オンオフ兼用」とか「休日のアウトドア用」なんていう通り一遍な選び方ではなく、もっと自分のライフスタイルに合致した時計を手にしてもいいはずだ。この特集で紹介するのは、時計ライター・竹石祐三が、実際に見て、触れたことで「これからの生活のなかで使いたい」と感じた時計の数々。もちろん、ここに挙げる時計がすべてではないが、この特集が、新しいライフスタイルにおける時計選びの参考になれば幸いだ。

  • 時計ライター竹石祐三1998年よりモノ情報誌の編集部に在籍し、2011年より時計の記事を担当。2017年に出版社を退社した後、フリーランスの時計ライターとして、時計専門誌やWeb媒体、ライフスタイル誌、ファッション誌などで執筆している。本誌では「カルチャーな腕時計たち」を連載中。

After “Stay at Home”

自粛期間を経て手に入れた
今の“気分”と“生活”にぴったりな1本

4月に発令された緊急事態宣言による約2カ月の自粛生活。思いついた時に、買い物や食事に自由に出かけられないフラストレーションはあったが、この2カ月を超えた先に待っていたのは「以前から気になっていた時計を買える」というサプライズなご褒美だった。

最初に魅了されたのは
ヴィンテージな意匠と、そのバックグラウンド

ご多分に漏れず、筆者も小遣い制だ。それゆえ、毎月自由になるお金は多くない。フリーランスのライターなので基本的には自宅での作業が多いものの、一度外出すればランチやお茶といった出費は余儀なくされ、しかも月に1~2回は飲みに行くことになる。こうなるとひと月の小遣いなんてあっという間になくなり、比較的手の届くはずの時計だってなかなか買えない。

ところが2カ月のステイホームでそれは一変した。そりゃそうだ。飲みに行かない(行けない)のはもちろん、昼食は完全に自炊。外出しなければ喫茶店にだって行かないわけだからお金なんて使いようがない。結果、この2カ月で10万円程度が貯まってしまった。

「2カ月間、何もせずに耐えたのだ。これは買うしかない」

そう考えるのは至極当然だろう。

ちょうど、少し前から欲しいいと思っていた時計があった。昨年秋に発売されたハミルトンの「カーキ パイッロット パイオニア メカ」だ。

この時計を最初に見たとき、まずデザインに惹かれた。小振りなクッション型のケースに、ごくシンプルで時刻の判読性が高いダイアルを採用し、グレーのNATOストラップを組み合わせたルックスは、ヴィンテージのミリタリーウォッチそのもの。それもそのはず。このモデルは、航空とのつながりを持ち続けてきたハミルトンにとっての重要なタイムピースのひとつであり、1973~’76年にかけて英国王立空軍に支給されていたパイロットウォッチ「W10」の復刻モデルなのだから。

しかもこのモデルは、デザインこそオリジナルに忠実でありながら、約80時間のパワーリザーブを実現する2018年発表の手巻きムーブメントH-50を搭載。自分好みのヴィンテージルックに実用的なスペックが備わっているのはもちろん、手巻き式の時計を持っていなかった筆者にとって、使うごとにリューズを巻き上げるという“ひと手間”を体感できる点にも琴線を刺激された。

緊急事態宣言が解除されてから数日後、筆者は貯まったお金を握りしめて自粛後初の買い物をした。前述の要素は購入後も満足感を高めてくれたが、加えて、幅33×縦36㎜のサイズが日常使いしやすい点にちょっとした感激を覚えた。近くに出かけるときに気軽に着けられるのはもちろん、自転車に乗る機会が増えた今感じているのは、ハンドルを握った状態でも時計が手の甲に当たらず、しかも小さいのに時刻が読み取りやすいこと。さすがは軍用パイロットウォッチ! 購入から約3カ月。自粛生活の鬱憤を晴らす“自分へのご褒美”は最高にいい買い物であったと実感している。

 

実際に使って分かったのは
デイリーに使える機械式時計だってこと

  • ハミルトン
    カーキ パイロット
    パイオニア メカ
    10万5600円

    1970年代に生産されたパイロットウォッチ「W10」の復刻モデル。ケース形状やインデックスなどのディテールはそのままに、最新のムーブメントを搭載して実用性を高めている。手巻き。SSケース、10気圧防水、ケースサイズW33×H36㎜。

    ハミルトン/スウォッチ フループ ジャパン
    03-6254-7371
    https://www.hamiltonwatch.com/ja-jp/

ダイアルはクラシックなカメラを想起させる、マットでテクスチャー感のある仕上がり。太陽光の下でも時間が読みやすくなっている。また、時分針やインデックスにはオールドラジウムカラーの蓄光塗料を用い、ヴィンテージ感を強調。
風防もボックス型のミネラルガラスを採用することでヴィンテージの雰囲気に寄与している。
ケースバックはネジ留めながら防水性は10気圧を確保。
  • Text竹石祐三
  • Photo & Image Composition江藤義典