愛用の万年筆といっしょにずっと使い続けたくなる、“オムレット”のようなペンケース|今日のレコメンド

誰にでも通用することじゃないが、まっさらな新品よりも、経年変化でクタッとなったほうがいい。その際たるものが革小物。特に日常的に使う財布や名刺入れ、ポーチなどは、自分といっしょに過ごした時間のひとつひとつが、それぞれ革の表面に刻まれ、なんとも味わい深い。本人以外にしてみると「そろそろお役御免じゃないの?」なんて煙たがれるたりもするが……。そうしたヒトの意見はさておき、ずっと持ち続けたくなるペンケースに出会ってしまった。それが、「INDUSTRIA★(インダストリア)」の“オムレットのようなペンケース”。

ポーチ? それとも財布? 見たことのない形状のペンケース

試作品を初めて手にしたときの印象は、「あっ、これ欲しい!」だった。

「INDUSTRIA★(インダストリア)」を展開する、プロダクトデザイナーの半杭誠一郎さんから、「今、ペンケースを作っているから見においでよ」と誘われたときのこと。商品化されたものはレザーだが、このときの試作品はナイロンツイルで、大きさもやや小ぶり。レザーに包まれたマグネットを開けると……ネオプレーン生地による“6本差し”のスペースが現れた。

ネオプレーンのペンケースは存在するが、それは複数をいっぺんに収納するもので、1本1本をやさしく包み込むタイプはなかなかない。また、「1本ずつ収納できる」といえば、1本差し、2本差し、3本差し……10本差しなどがあるものの、半杭さんの試作品は、それらとは趣きが異なった。そう、これまでのペンケースにはない見た目とギミックが所有欲をくすぐるのだ。

“試作中”だからこそ、拙い私にも意見が求められ、生意気にも「ナイロンじゃなくファブリックは?」「6本じゃなく4本は?」とディスカッションし……幾週間か経った。果たして……半杭さんが完成させたのは、想像をはるかにしのぐ、素敵なペンケースだった。

ずっと触っていたくなる、“オムレットのようなペンケース”が誕生

完成したペンケースは、“万年筆をはじめ、愛用の大切な筆記具を持ち歩くため”であり、“使い続けることで美しく育つ”という特別なものになっていた。外側はナイロンツイルではなく、半杭さんがこれまでも自身の製品にたびたび採用している、イタリア製の「バケッタレザー」。吸い付くような肌触り、革好きにはたまらない芳しさ。これは単なるペンケースにあらず! 半杭さん言うところの「所有欲を満たして気分を上々にして、しっかり守ってくれる」ペンケースなのだ。

まずはバケッタレザーについて見てみよう。バケッタレザーとは、化学薬品をいっさい使わず、樹木のタンニンのみでなめしたレザーのこと。半杭さんは、イタリア・トスカーナ州サンタクローチェにある「ロ・スティバレー社」が生み出したバケッタレザーだけを使い、重厚感ある表情がなんとも素晴らしい。

「でしょ? カサカサした革は嫌で……ね。油がしっかり入っているのが好きなんです。この革はエイジングが早くてね、使えば使うほどカッコよくなる。10年後、すごいことになっているだろうな……って想像すると興奮する!」

一度水洗いすることで、独特のシワが現れたバケッタレザー。革そのものも厚いが、半杭さんが選んだネオプレーンも厚い。「こんな硬いものを縫うことができる職人は、今や希少です」とも。

新品の今は、まだちょっとよそよそしいが、それでもすーっと手になじむ。10年とはいわず、5年経った姿を想像してみる。ううう、たまらない。パタッと開き、愛着ある万年筆を抜き出してはまた閉じる。ワケもなく幾度とそんな行為を繰り返してしまう。くるっと包むような形状、ゆえに“オムレットのような”ペンケース。ゆるやかなカーブが、そのネーミングを象徴している。

繊細なガラスペンさえも、持ち運べるなんて

「ありそうでないもの」、そして「道具を守るもの」。半杭さんが生み出してきたプロダクトのすべては、そこに起因している。このペンケースの最たる点はやはり、“革とネオプレーン”の融合であろう。でも、アウトドア・ツールならいざ知らず、なぜネオプレーンなのか?

その理由は、半杭さんが2016年に自身の会社であるHANGUI PROJECTを設立し、ブランド「INDUSTRIA★」を起こす、だいぶ前にさかのぼる。実は半杭さん、カメラバックやケース、コスメポーチなどを数多くリリースしている「アルティザン&アーティスト」の創業者であり、デザイナーであった。

カメラやレンズは精密機器。機材を衝撃から守ることの素材づかいや工夫はもとより、半杭さん自身が写真家であることも手伝って、「こんなのが欲しかった!」という、わがままな欲望を満たすラインナップは、カメラ好きならご存じのとおり。

ヘアメイク業界もしかりで、繊細な化粧ブラシをはじめとするメイクアップ・ツールのあれこれを効率よく収納し、持ち運ぶためのケースやポーチ、バッグ類など多彩な商品を展開していた。

半杭さんによるアルティザン&アーティストのプロダクトは、第一線で活躍する写真家とメークアップ・アーティストという、その道のプロフェッショナルたちに支持された。ときには彼らのフィードバッグも加味したものづくりを行っており、そのスタイルは今も変わらない。このペンケースにネオプレーンを採用したのは「大切なものを守りたい」という思いがあってこそだ。

ネオプレーンというアウトドアでおなじみの素材は、ともすれば、いや、どちらかというとオシャレからはほど遠い存在だと思われていた。でも、丈夫で伸縮性が高いという特性は、万年筆の1本1本を守る最強の素材だと実感させてくれる。これまでの筆記具メーカーや文房具メーカーの視点にはない、“精密機器を守り運ぶ”プロならではの発想だ。

そして、これほどの安心感があるならば……とひらめいた(私が、だ)。

筆記具の中で最も繊細なものといえば、ずばりガラスペンである。このガラスペン、今、密かなブームではあるが、そうそう持ち歩く人はいるまい。「ガラスペン全体が革製のペンシースに収まったとしても、左右前後からの衝撃で割れてしまうのでは?」と、たいていの人は、持ち歩かないハズ。なのに、このペンケースなら余裕しゃくしゃく。ペンケースごと床に落としても大丈夫。これで、見せびらかしたくとも、家から連れ出せなかった気に入りのガラスペンを、堂々と持ち歩ける。

まさに「ありそうでなかったもの」。となると、次は半杭さん、「インクのボトルを複数携帯できるケース、作ってくださいな」と、わがままを言いたくなってしまう。

ずっと使い続けられる──それって幸せなことだよね

「『こんなのあったらいいなぁ』『こんなの作ってよ』なんて言われると、すぐに考え出してスケッチをしちゃうんだよね」

インクボトルはさておき、今、進行中のプロジェクトもそんなところからスタートした。

「革とネオプレーンの応用編としてね、時計ケースも開発していまして。現段階では、フラップの革の厚みを薄くして、どのタイプの時計でもうまく収納できないかと試行錯誤中なんですよ」

そのほかにも半杭さんは、極厚のネオプレーンを使ったラッピングクロス(写真上)をリリースし、さらにはカメラ用のストラップ(写真下)の商品化も計画中。ラッピングクロスは、裏面の四隅にベルクロを設け、どの面にも接着OK。複雑な形状のモノでも簡単に包み込める便利なアイテムだ。もう一方は、蛇腹状の生地に複数のゴムが束になって内包されており、ショックアブソーバーの役割を担う新機軸のストラップ。カメラ&レンズの揺れが抑えられるのはもちろん、肩や首への負担も軽減してくれるのだとか。

「持っていてうれしくなる革と機能性あるネオプレーンの可能性はまだまだ広がる」と半杭さん。アイデアをカタチにするのは、革の職人とネオプレーンの職人。どちらも東京・墨田区に工房を構え、半杭さんが長年タッグを組んできた実力派だ。

「こんなに厚みある素材を、こう上手に縫製できる職人はそうそういません。素材もよくて、作りもいいから、そうそう壊れることはない。『袋物なんだから、そんなに耐久性を持たせてどうするの?』なんて揶揄されますが、ずっと使い続けてもらえるのはうれしいこと。ボロボロになって、修理してまで使ってくれる。そんなものを作りたいんです」

そこには、アルティザン&アーティスト創業以前の半杭さんの姿が浮かんでくる。

革靴が好きで好きで、シューズデザイナーになり、有名ブランドのデザイナーとして活躍したのち、バッグも範疇に。その後、あるバッグメーカーにデザイナーとして採用されるのだが、ここで、半杭さんが、自分のブランドを立ち上げようと考えた“きっかけ”に出会ったのだ。

「会社の倉庫にナイロンなどの反物(生地)がごっそり余っていたんです。つまり、ドロップしてしまった商品の生地で、製作する必要がなくなったから使い道がないというもの。景気がよかった時代ですから、そうした不良在庫を抱えていても問題なかった。でも、その大量の反物を見て、『絶対にオレは材料を無駄にしない。使い切る!』って。こんな使い捨ての感覚がどうしても許せなかった。だから、アルティザン&アーティストを起ち上げたときも、そして、今のINDUSTRIA★も、手にしてくださった方にずっと使い続けてもらいたい、ずっと使いたいと思ってほしい、そう願ってものづくりをしているんです」

INDUSTRIA★
オムレットペンケース6
価格:各2万4840円