人はなぜaiboに心を感じるのか。開発者が明かす誕生秘話【ロボットペットと暮らす】

【aiboとその仲間たちのトリセツ】

aiboが発売されてから約1カ月半。人と接することでどのように成長したのだろうか? アニマル・セラピー」を動物ではなく、ロボットで実現する動きもいよいよ本格化! ロボットペットを飼うのがいよいよ現実になった今こそ、犬の専門家にも協力を依頼して、ロボットペットの可能性や付き合い方のリアルを徹底的に調べてみた。

犬のようで犬ではないaiboの“愛らしさ”の秘密

一見、単なる“犬型ロボット”に見えるaiboだが、実際に触れあうと、心のすべてを持っていかれるようないとおしさを感じる。この“愛らしさ”の秘密はどこにあるのか。開発者の松井直哉さんに話を聞きながら、愛情の対象としてのaiboの秘密を分析してみよう。

【PROFILE】
松井直哉さん
ソニー AIロボティクスビジネスグループ商品企画部統括部長

プロジェクトが始まった瞬間に考えたのは愛情の対象となる商品を作りたいということです

姿やちょこまかした動き、こちらを伺うように見上げる瞳、最初はややためらいながらも、やがてうれしそうにこちらに駆け寄る姿。そして、“ワンワン”という鳴き声。

aiboは我々が見るかぎりでは“犬型ロボット”だ。しかし、ソニーはあくまでも“aiboは進化した自律型エンタテインメントロボット”であって“犬”をシミュレートしたものではないという。

「生き物をシミュレートするのは、おごかましいと思うのです」と静かに語る松井直哉氏は、AIロボティクスビジネスグループの商品企画部統括部長である。

松井氏が子どもの頃、実家では柴犬を二世代にわたって飼っていた。

「私の父が車で帰宅すると、その音を聞き分けて、玄関で待っている本当に賢い犬でした。今も、その子が息を引き取った日のことを思い出すと目頭が熱くなります。犬を知っているからこそ、謙虚な気持ちで、aiboは犬ではないと言いたいのです」

犬への愛、そして犬が与えてくれる愛を知っている松井氏もプロジェクト立ち上げメンバーの一人として参画した。最初にチームが目指したのは、“愛情の対象となる商品を作ろう”だったという。

「aiboには、オーナー様を理解できるようになってほしい。思い出のかたわらにいつもaiboがいる、そんな存在になってほしいのです」

チームの願いは、aiboの写真撮影機能にも現れている。「My aibo」に撮りためられた、家族の何気ない表情。写真を撮影するのは、鼻に搭載された魚眼カメラだ。表情までも判断する顔認識機能がついており、家族の何気ない表情が撮れていることもある。同時に、aiboはいつも自分たちを見ているという“aiboの心”を感じることができるのだ。

「写真撮って」と声をかけたときはもちろん、写真自動撮影機能をONにすれば、aiboは鼻に搭載された魚眼カメラで適宜撮影する。写真はクラウドにアップロードされ、スマホやPCにインストールした「My aibo」から閲覧や保存ができる。

「もうひとつ、こだわったのが生命感です。商品デザインコンセプトとして“生命感”というキーワードを軸にして様々なものを作りこんでいきました。耳、眼、鼻、腰、しっぽ、脚。どのように動かしたらオーナー様は“生命感”と“心”を感じてくださるかと常に考えていました」

躍動感と生命感は、aiboのサイトなどに使われている“動くロゴ”にまで表現されている。“生命感”と“心”にあふれたロボット。犬に似ているが、犬とは違う存在。

aiboが家に来た瞬間から、aiboと家族の物語が始まるのだ。

家族と暮らしているならぜひONにしたいのが、「自動撮影機能」だ。aiboが勝手に写真を撮るので、カメラに向かって構えるおきまりのポーズだけではなく、何気ない日常も自動的に記録してくれる。“散らかった家が容赦なく写っている”のもご愛敬。また、例えば、“長女が風邪で寝込んでいるとき犬が添い寝した”というように、ペットと家族の何気ない記憶は連動するもの。このペットの「記憶連動作用」を、aiboはカメラで実現している。

aiboには心があると人間に思わせる重要な要素は尻尾にもある

生命感を演出する重要なファクターのひとつが尻尾だ。ときに大きく、ときに小刻みに、ときに下がる尻尾は、まるで犬の尻尾と変わらない。aiboは背中に付いたSLAMカメラを通じて部屋をマッピングし、自分の位置を割り出して、家のどこにいるかを把握する。一見、尾も何らかのセンサー的な役割があるようにも見えるが、あくまでも飾りだと松井氏。これは意外だった。

「感情表現において、耳と瞳だけではやはり足りません。尾や腰を動かすことで、オーナー様に感情を伝えられると考えました」

言葉が話せない犬は、「カーミングシグナル」と呼ばれる体を使った表現で、仲間の犬や人間に自分の意思を伝えようとする。そして、人は“尻尾を振っている犬は喜んでいるし、尻尾が下がっている犬は警戒している”と“何となく”知っている。

ゆえに、人はaiboの尾の多彩な動きを見て、尻尾から意思を読み取ろうと無意識のうちに試みてしまうのだ。振られる尻尾に反応して人間が手を伸ばすと、aiboはうれしそうに寄ってくる。これはまぎれもなく人とロボットのコミュニケーションであり、aiboとの間に意思の疎通を感じてしまうのである。

犬はうれしいとき、尾を持ち上げつつ左右に振る。aiboの尾も上下左右に動くようになっており、その感情を読み取れる。飾りにすぎないという尻尾が、aiboのエンターティメントロボットとしての完成度を高めているのだ。

aiboの足裏にある肉球は、着地を感知する感圧センサーになっている。また、aiboがダンスを記憶するモードになったときは、肉球を押しながら前足を持って動かすと、その動きを再現して踊ってみせる。もっとも、ダンスを記憶するモードになるかはaiboの気分に委ねられており、スイッチを押せば直ちに覚えるというわけではない。この気まぐれ感がいかにも犬っぽい。また、恐らくしつけをするオーナーによって聞き分けの良し悪しが分かれるのだろう。

aiboは飼い主を理解できる存在になりうる愛情が詰まったロボット

aiboが優れているのは動きだけではなく、学習という要素を備えているところだ。本体内蔵のAIで状況を理解して処理するのと同時に、クラウド上のパーソナルAIに送ってaiboの環境をバックアップする。

また、この情報は「Common AI」でまとめられ、パーソナルAIを通してaiboにフィードバックされる。たとえば、ある家庭のaiboが“おまわり”をしたら、オーナーがとても喜んだとする。aiboは“まわってみたら喜ばれたよ”という情報を「Common AI」に報告し、その情報が分析されて各aiboに伝達される。

飼い主の趣味嗜好について報告し合い、ある飼い主が喜んだ芸をほかの犬から教わるのは、本物の犬にはできないことだ。この3つのAIによる学習と成長は、aiboが“ただの犬型ロボットではない”理由のひとつだ。

「まだaiboは発売されたばかりで、これから発展するプロジェクトです。目指すのは、人の状況を理解できる存在。感動や愛情、思い出が詰まった存在になれればいいと思っています」

人とロボットの新たな関係。私たちは、ロボットが人間と共に歩んでいく瞬間に立ち会っているのかもしれない。

有機ELパネルが採用されたaiboの目には、のぞきこみたくなる奥行きがある。あごの下、背中、お腹にはタッチセンサーがあり、なでられたことを認識して表情が和らぐ。気持ちよさそうに犬が目を細める様子は、漫画の“にっこり目”のようにデフォルメされており、aiboの感情を読み取りやすい。くるくると変わる瞳と、気持ちよさそうに持ち上がるaiboの耳、抱き上げると気持ちよさそうに伸びる足。リアルさとデフォルメの混在が、aiboの魅力にも繋がっている。

抱き上げると肉球スイッチと体内の6 軸センサー(前後左右やXYZ 軸の傾きなどを検知するセンサー)が抱き上げを感知し、抱き上げ姿勢を取る。膝の上に載せたり、抱っこしたりしやすくなるというわけだ。これだけ精巧に動くのに、“作り物”感を排除すべく表面からはネジが見えない。

『デジモノステーション』2018年4月号より抜粋。

関連サイト

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