使い込むほどに味が出る。ツール感に満ちた男のクロノグラフ『103.B.AUTO』を推す理由

 

ツール感に満ちた男のためのクロノグラフ

SINN
103.B.AUTO
価格:29万1600円
ホッタ TEL:03-6226-4715

パイロットのために作られた腕時計を、パイロットウォッチという。

1940年代から’50年代にかけて、様々な時計メーカーがこのジャンルに乗り出し、傑作を生み出した。その中で、今なお当時のパイロットウォッチのスタイルを留めているのが、ジンの自動巻きクロノグラフ 『103』である。発表は’80年代。しかし「クラシック・パイロット・クロノグラフ」と銘打つ通り、そのデザインはかなり古典的だ。

ジンの創業者は、ドイツ空軍で飛行教官をしていたヘルムート・ジンである。戦後、ラリードライバーとして活躍していた彼は、ひとりでもできるビジネスとして時計作りに着目した。

パイロットでありラリードライバーであった彼は、時計ではなく信頼できる計器を作ろうと考え、’61年に「ジン特殊時計株式会社」を設立した。特殊時計、という名前が示すとおり、ジンの時計は一貫してプロ向けだった。

ジンは数多くのパイロットウォッチを作り、そのいくつかはドイツ軍やNATOに採用された。ただ個人的な意見を言うと、もっとも完成度の高いジンのパイロットウォッチは『156』と、ここで紹介する『103』だろう。

載せるムーブメントが供給停止になったため、残念ながら『156』は生産中止となった。しかし、幸いにも『103』はまだカタログに残っている。

ツールっぽさを感じさせるのが、ソリッドバックの裏蓋だ。現在多くの時計メーカーが、ムーブメントが見える、透明なトランスパレントバックを採用する。しかし実用時計ならば、強いて中身を見せる必要はないだろう。頑強な裏蓋により20気圧の防水性を持つ。

もっとも、『103』というパイロットウォッチに、ずば抜けた特徴があるわけではない。構成は極めてオーソドックスで、ETA7750というありふれた自動巻きクロノグラフムーブメントに、視認性の高い文字盤と、黒い回転ベゼルを与えただけである。

極めて視認性に優れる、黒文字盤と白い針の組み合わせ。かつては夜光塗料にトリチウムを使っていたが、2000年前後から、発光量が大きく、経年変化しないルミノバに置き換えられた。日付と曜日表示が付いているため、実用性も十分だ。

しかし手堅い構成を持てばこそ、この時計はどこでも修理できたし、極めて高い信頼性を持つこととなった。加えて言うと、控えめな価格もシンプルであればこそだ。つまりプロ向けのツールとしては、申し分ない条件を備えていたのである。

以降、『103』は様々なバリエーションを増やし、今やGMT付きや、パイロットの使用に特化したテスタフ、長期間にわたって高い精度を維持するディアパルなどもある。しかし面白いことに、デビュー以来、103のデザインは基本的に同じなのだ。

とりわけ、一番ベーシックな『103.B』は、1980年代の第一作と、最新モデルの見た目はほぼ変わっていない。つまり、手を加える必要がないほど、『103』のデザインは完成されていたのである。この30年変わっていないのだから、100年後も『103』のデザインは変わっていないに違いない。

筆者はこの時計に個人的な思い入れがある。初めて買った新品の時計が、まさに『103.B』だったのである。

ムーブメントは自動巻きではなく手巻きのETA7760だったが、それ以外は写真のモデルに同じだ。なぜ『103』を選んだかというと、頑丈そうで見た目がカッコよく、使うと味が出ると思ったからだ。

ジンの『103.B』には様々なモデルがあるが、個人的なベストは、かつて筆者が選び、そしてここに掲載した『103.B』だと信じている。

ベゼルの素材はアルミニウム、風防は強化アクリル製だから、丈夫なステンレス製のベゼルと、サファイアクリスタル製の風防を持つ『103.B.SA.AUTO』には劣る。スペックだけを考えるなら、こちらのモデルをお勧めしたい。

しかしアルミ製のベゼルも、強化アクリル製の風防も、傷が付きやすいからいいのだ。

ジン103を特徴付ける、ブラックの回転ベゼル。他のモデルは丈夫なSS製だが、『103.B.AUTO』だけはかつてモデルに同じく、アルミニウム製のベゼルを採用する。傷が付くことを嫌う人は多いが、だからこそ使いこむと味が出る。個人的に、このモデルを押す一因だ。

今の時計メーカーは、ケースにせよ風防にせよ、傷が付かないことを良しとする。確かに高級品ならば、傷が付かない方がいいに決まっている。しかしツールとして考えた場合、使い込んで傷だらけになった方が、間違いなくかっこいい。

現行品でそういった時計を上げるならば、オメガの『スピードマスター プロフェッショナル』と、ジンの『103.B.AUTO』になるだろう。どちらもアクリルまたはプラスチック製の風防を持ち、ベゼルもアルミニウム製で、つまり使い込むと「味」が出る。

作りのいい高級時計は魅力的だが、ツール感に満ちた時計にも、やはり独特の良さがある。ジン『103』は決して安い時計ではない。しかし、買って使い込めば愛着がわくことは、実際所有していた筆者が保証する。

広田雅将(ひろたまさゆき):1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

『デジモノステーション』2018年5月号より抜粋。

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103.B.AUTO