PDAをケータイ化できて便利、のはずが……?2000年代初頭に生まれた悲しきバイザーフォンを知ってるかい?

今月のヘンタイ端末はこれだ!

Handspring
Visor Phone
販売価格(当時):約5万円(499ドル)

PDAをケータイ化。単体でも使えるがスマホにはなれず中途半端で終わる

スマホの無い時代、人々はパソコンに入ったデータを持ち運ぶためPDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)と呼ばれるモバイル端末を使っていた。単体でメールできるPDAが登場したのは2000年以降。それ以前は毎日パソコンとPDAを接続し、データ同期させる必要があったのだ。

1990年代にPDAの代名詞だった製品がパーム(パーム社)である。その互換機として登場したのがハンドスプリング(Handspring)社のバイザー(Visor)だ。本体背面の拡張ボードにメモリやゴルフゲームなどのモジュールを交換して取り付け、機能を拡張できたのである。写真撮影ができるカメラモジュールや、肌に貼り付けるパッドを接続する低周波治療器といった、ジョークのようなモジュールも登場した。

そんなモジュールの中で、実用性が高いはずなのに全く売れなかった製品が、今回紹介する『バイザーフォン』だ。名前の通りケータイのモジュールで、これを装着するとバイザーをケータイに変身させることができる。筆者のコレクションのバイザーフォンはバッテリーを紛失してしまったが、そのバッテリーをはずしたところにSIMスロットがある。ここに自分のケータイのSIMを差し替え、入れてバイザーに取り付け、電話をかけることができる。


パソコンと同期し大量の電話帳を保存できるバイザーから直接電話を掛けられる。2000年当時、これはとても便利だったはず。データ通信はできないが今のスマホのような未来の可能性を感じさせてくれた。しかし、残念ながら大きな欠点があったのだ。

ケータイとして使うには常にバイザーフォンを本体に刺しておかねばならない。複数のモジュールを持っていて、写真を写したいのでカメラモジュールに交換すると、当然だが電話の着信を受けることはできない。PDAはビジネスユーザーにも広く使われていた。拡張性のあるバイザーで様々なことができるのに、他のモジュールを使っているときは取引先からの電話が受けられないのだ。

そんな欠点を克服しようと、周辺機器メーカーのケンシントンからバイザーフォンを単体で電話として使えるキーパッドが販売された。これがあればバイザーフォンをバイザー本体から取り外しても、電話をかけたり受けたりできるのである。

しかしこれがあるなら、わざわざバイザーフォンをバイザーに装着して使う必要はない。そしてケータイとして使うなら、こんな面倒なものを買わなくとも、普通に市販されているケータイを使えば済む。なにせバイザーフォンの値段は5万円以上もしたのだ。

モジュールで機能拡張できるバイザーは男の子心をくすぐる合体型PDAとして一定の人気を誇っていた。しかしその後ハンドスプリング社は携帯電話機能を内蔵したスマホ『トレオ(Treo)』を開発。そして本家であるパーム社に買収されてしまった。モバイルデバイスにケータイ機能が内蔵できるようになれば、もはや後付けのケータイモジュールに存在意義はない。

バイザーフォンは技術進化の狭間に生まれた悲劇の製品だったのである。

山根康宏(やまねやすひろ):香港在住のジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1500台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

『デジモノステーション』2018年5月号より抜粋。