あのポルシェも電動化!自動車業界のセレブが集まる「ジュネーブ・サロン」で高級車の未来を考える

 

今月のテーマ
#06 ジュネーブ・サロン

世界に数あるモーターショーの中でも、自動車業界のエグゼクティブやセレブリティが集まることで知られるジュネーブ国際モーターショー(通称、ジュネーブ・サロン)。世界の富裕層が住む土地柄もあって、高級車も百花繚乱だ。自動運転、電動化、コネクテッドといった次世代技術が、高級車の世界をどう変えていくのだろうか?

ポルシェもいよいよ電動化 革新的な“らしさ”を追求する

F1選手やハリウッドスターが邸宅を構えるレマン湖の辺りで開催されるモーターショーと聞くと、いったいどれほど豪華なのだろうか? と思うだろう。正直なところ、会場の広さで言えば、世界でもピカイチに小さい。しかしながら、ジュネーブという国際都市の玄関口である空港に隣接しており、エグゼクティブやセレブがプライベートジェットでさっと降り立つことができるのだ。

隣国であるイタリア北部へもクルマで移動できるがゆえに、フェラーリやランボルギーニといったスーパー・スポーツカー・メーカーに加えて、ピニンファリーナやジウジアーロといったカロッツェリアもコンセプト・モデルを並べる。

一番の決め手は、国内に自動車メーカーを擁しない点だ。パガーニやケーニグセグといった小規模生産の超高級スーパー・スポーツカーが堂々とブースを構え、日本車メーカーも元気な様子を見せてくれる。トヨタ、日産、ホンダといった大手はもちろん、降雪地帯でスバルが売れているし、山間部ではコンパクトなスズキも支持されている。

そして、英語、フランス語、ドイツ語、イタリア語、中国語、ロシア語といった様々な言語が入り交じるショー会場をそぞろ歩きながら、春待ち望むオープンカーや、少量生産のスーパー・スポーツカーを眺めているだけで心が華やぐ。

「音速の貴公子」との呼び名も高かった伝説のF1ドライバーであったアイルトン・セナの名を冠したスーパーカー、マクラーレン「セナ」が発表された。全身にエアロブレードを纏い、跳ね上げ式のシザードアを持つ外観だけでもタダモノではない雰囲気だ。世界限定500台という限られた台数のみの発売となる。1200kgと超軽量なボディに、800psを発揮するツインターボ付き4リッターV8エンジンを積み、0-100km/h加速は2.8秒となる。

限られた記事では、ジュネーブ・サロンの全容を伝えるのは難しいが、今年の目玉はなんといっても“電動化”である。最大の注目は、ポルシェがピュアEVのコンセプトカー『ミッションE』の進化版となる「ミッションE クロス ツーリズモ」を発表したことだ。

もちろん、旧来のクルマ好きは「ポルシェまでもが電化か……」と嘆くに違いない。が、裏を返せば、「電動化の時代にもクルマを作り続け、スポーツカーとしての走りを追求する」とポルシェが宣言したとも解釈できる。電動モビリティ戦略におけるEV部門のチーフを務めるシュテファン・ヴェックバッハ氏は、こう語る。

「“ポルシェらしさ”を貫くということは、スポーツカーであるということです。それは、電動化の時代になっても変わらぬ信念です。具体的には、クラス随一の加速性能をもたらすために、電動モーター、インバーター、バッテリ冷却システムなどは独自開発しました」。

電動モビリティ戦略におけるポルシェのEV部門のチーフを務めるシュテファン・ヴェックバッハ氏曰く、「ポルシェらしさとは、スポーツカーであることであり、性能を引き出すために必要な技術は独自開発します。基盤技術はグループ全体で開発することで、相乗効果も得られます」という。

単に走りが速いだけではなく充電速度も高速なポルシェEV

3年前にポルシェ初のEVコンセプトとして世に送り出された『ミッションE』が4ドア・クーペのスポーティなスタイリングだったのに対して、今回発表された「ミッションE クロス ツーリズモ」は、SUV風のクロスオーバー・スタイルだ。

ポルシェ曰く、「CUV=Cross Utility Vehicle」であり、ライフスタイル志向の顧客に向けて電動モビリティのプロダクト・ポートフォリオを広げた格好だ。当然、 オフロード性能も重視しているが、ポルシェを名乗るからには、パフォーマンスに妥協はない。前後に配された2基の電気モーターから、合計600psもの強大な出力がデリバリーされて、4輪を駆動する。0-100km/h加速は3.5秒未満という俊足ぶりだ。

「ミッションE クロス ツーリズモ」は、ライフスタイル志向の顧客に向けて開発されたクロスオーバー・スタイルである。前後に配された2基の電気モーターで4輪を駆動し、悪路走破性を担保しつつ、0-100km/h加速は3.5秒と、SUVとは思えない俊足ぶりを発揮する。EVパワートレインがフロア内に収納できるため、エンジン車と比べてルーミーな室内空間を誇る。

「プレミアム・スポーツカーであるなら、単に速いだけではなく、充電も早い必要があります。その点は他のドイツ車メーカーと手を組むことも含めて、ユーザーにとってトータルで“ポルシェらしい体験”ができるようにとも考えています」(ヴェックバッハ氏)

具体的には、従来の2倍にあたる800Vもの高電圧の急速充電を採用し、1回の急速充電では約15分で80%の充電となり、約400kmの走行が可能になる。なお、フル充電では約500kmの巡航を可能にする。

懸命な読者なら気づいただろうが、ポルシェの電化を嘆くのは浅はかだ。クルマの未来を見据えれば、ポルシェといえども電動化の方向を探る必要があり、“ポルシェらしさ”を電動モビリティで表現することに取り組む姿勢こそが、将来モビリティのあり方につながる。ヴェックバッハ氏曰く、EV時代の“ポルシェサウンド”などにも研究開発がおよんでおり、「搭載されるテクノロジーに関係した音にしたい」と考えているという。

フォーミュラEに参戦するなど、電化に向けて勢いづくジャガーにも注目だ。ジュネーブでは、「i-Pace」なる市販EVを発表した。

ジャガーが放つ電動SUVの『i-Pace』は、400psもの出力を発揮し、スポーティネスを旨とする。クロスオーバー・ルックではあるが、上下に狭められたグラスエリアが疾走感のあるスタイリングを演出している。電欠を防ぐナビを搭載するなど、コネクテッドも充実。

ポルシェ同様のクロスオーバー風で、仮想敵はテスラ『モデルX』と目される。前後に電気モーターを積む四輪駆動で、0-96km/h加速を約4秒でこなす。豪華なセダンのイメージが強いが、ジャガーの出自がスポーツカー・メーカーであることを鑑みると、電動モビリティでスポーティネスを打ち出すのは正解だ。

「スポーツ・アクティビティ・クーペ(=SUC)」の第二弾となる『X4』は、全長×全幅×全高=4752×1918×1621mmと、街乗りに便利なボディ・サイズ。大型キドニーグリル、LEDフロントランプなど、新世代BMWらしい顔立ちを持つ。

操れなくても車好きが楽しめる自動運転を再設計するボルボ

レーシング・チームのポールスターを傘下に収めたボルボが発信する電動化の戦略も興味深い。デザイナー出身という異色のCEOであるトーマス・インゲンラート氏は、「2019年の発売を予定した『ポールスター1』は、電気モーターとエンジンを組み合わせたPHVであり、ピュアEVの『ポールスター2』『ポールスター3』が続きます」という。

ボルボ傘下となったレーシング・チーム「ポールスター」が電動モビリティ・ブランドへと生まれ変わった。オーリンズ製錬速可変電子制御サスペンションを世界で初採用するなど、電動のメリットを活かした機能を装備する。

今回、コンセプトが発表された『ポールスター1』は、ターボ付き2L直4エンジンに電気モーターを2基組み合わせて、最高で600psもの出力を生む。145kmものEV走行が可能で、それ以上の距離はエンジンを始動して、ハイブリッド車として走ることができる。『ポールスター1』は年産500台、15万ユーロと限られた人のためのモデルだが、既存のボルボ・ユーザーに手が届くモデルを投入する方針だ。

電動化に自動化を載せた“次世代技術テンコモリ”のコンセプト・カーが、フォルクスワーゲンが発表した「I.D. VIZZION」である。運転席(?)にハンドルもペダルもなく、拡張現実によって操作を行う。顔認証で個人を認識し、ドアを開閉し、登録された乗員情報から音楽や空調などを好みに設定して、快適な室内空間を生む。AIによって、個人の好みも反映した提案までしてくれる。

『I.D. VIZZION』は、レベル5の完全自動運転の機能を搭載。VWグループの次世代電動パワートレインをベースにした自動運転車で、ハンドルもなく、バーチャルで操作する。顔認証でドアを開閉し、自動で音楽や空調などの設定を行うほか、AIによるカスタマイズも行う。

実際にシートに座って見ると、ハンドルやペダルがないので、リビングルームのソファのようにゆったり座れる。グラスエリアが広く眺めが良いことに加えて、車載アプリも充実させる方針だ。バーチャルで目的地を支持したあとは、エンタテインメントを楽しんだり、リラックスしながら移動するのだろう。

テクノロジーに慣れ親しんだデジモノ世代にとって、電化や自動運転といった技術はそれだけでも魅力的だが、クルマの魅力としてはもうひと工夫が必要だ。

だからこそ、コネクテッドと組み合わせて、次世代テクノロジーを駆使したクルマの楽しさを再設計することが重要になってくる。「エンジンがなくなる」「操る歓びがなくなる」と嘆くのはもはや時代遅れであり、次世代モビリティの登場で広がる楽しさに目を向ける時代なのだ。

フェラーリ伝統のV8モデルに用意されるスペチアーレとして、ファンの期待を集めてきたニューモデル『488ピスタ』がベールを脱いだ。カーボンなどの軽量素材を採用し、マイナス90kgのダイエットに成功。3.9リッターV8エンジンにはスープアップが施されており、720ps/770Nmへとスペックを向上。1280kgの軽量なボディに搭載した結果、0-100km/h加速は2.85秒、最高速は340km/hのハイパフォーマンスを叩き出す。
1500馬力(!)を発揮するクワッドターボ付き(!)W16気筒エンジン(!)を搭載し、400km/hまでをわずか約30秒で加速する。トップスピードから停車するまでも、わずか約10秒という超ド級のスーパー・スポーツカーである。265万ユーロというプライスタグも、超ド級だ。
ベントレーの豪華SUVである『ベンテイガ』に、”世界初のラグジュアリー・ハイブリッド”が加わった。新開発の3リッターV6エンジンに電気モーターを組み合わせることにより、最大50kmものEV走行が可能なPHV(プラグイン・ハイブリッド)となる。CO2排出量は75g/km(!)と、驚異的に低い。2017年秋にCEOに就任したエイドリアン・ホールマーク氏が登壇。
川端由美(かわばたゆみ):自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。International Engine of the Year選考委員なども務める。

『デジモノステーション』2018年6月号より抜粋。