「趣味は小さな幸せでいい」。プロ経営者・伊藤嘉明の浅く広く趣味を楽しむコツ|d.PEOPLE

ビジネスもオフタイムも隔てなく、遊びゴコロを忘れずに人生を楽しんでいるオトナたちに、遊びについてインタビューするこの企画。第2回目は、これまで数々の業界でビジネスに変革をもたらしてきた“プロ経営者”であり、本誌dsで連載コラム「人生遊び振り切るが価値」を執筆する伊藤嘉明さんに、趣味について大いに語っていただいた。
伊藤嘉明/いとうよしあき タイ・バンコク生まれ。X-TANK CEO。ジャパンディスプレイの常務執行役員CMO兼CSOも兼務。かつて、外資系ブランドのPCを自衛隊に納入し、7期連続売上未達成事業をV字回復させ6期連続売上目標を達成。マイケル・ジャクソンの名盤『THIS IS IT』を約230万枚売り上げ、社会現象を起こす。三洋電機・ハイアールアジアでは15年続いた赤字を就任一年で黒字化。現在、世界のヘッドハンターがその動向を注視するプロ経営者。

日本でイノベーションが生まれないワケ

――伊藤さんというと、2014年のハイアールアジアグループ代表取締役社長兼CEOに就任後、発表され話題となったスターウォーズシリーズ『R2-D2型移動式冷蔵庫』に、かなりの遊びゴコロを感じてしまいます。

伊藤:あれは世の中にないものを作ったんですね。家電業界のルール上はダメというものがあります。大人になると、だいたいそういうルールの上でモノを考えてしまいます。でも、様々な知らない業界を渡り歩いてきた“よそ者”である僕にしてみると「ありじゃん!」と思うわけです。やってもいいことの延長線上なんですよね。

僕がああいうことをやると、子供や若手、ビジネスマンだって、「あっ、別にやっていいんだ」と思えるようになる。それは良いきっかけになると思うし、何より自分自身が楽しい。批判はあるかもしれませんが、こちらも正しいことをやっているわけだし、誰かの命を奪ったり、迷惑をかけようとしているわけではないですから。何もしないよりは、いいですよね。

――どうしても、何もなく波風が立たないように、という考えをしてしまいがちです。

伊藤:日本人はルールを守らなければいけないところで育って、出る杭は打たれてしまう。だから、日本からイノベーションは生まれないのかなと思います。むしろ、ルールさえ守っていれば何をしても別にいいと思うわけです。それがなかなかできないんですね。

スティーブ・ジョブズの言葉で「We’re here to put a dent in the universe」という言葉があります。我々は宇宙に衝撃を与えるためにここにいると、まあ宇宙に傷跡を残せと言っているわけです。Dentって凹みのことで、そういう凹みを残す感覚でいろと。いま思うと、R2-D2はそれですよね。

ゾンビマニアは、伊藤家家訓のなせる技!?

――伊藤さんといえば、趣味の人というイメージがあります。

伊藤:多趣味だと思われるようですけど、僕はそうは思っていなくて、広く浅くなんです。その浅さが半端ではない。恥ずかしいくらいです。飽きてしまうんですよね。ただ、飽きるといってもしつこいんです。一度は熱が冷めるんですけど、モノは処分しないので、結果的に何年か経って同じモノがループしてきます。奥さんからも、「あなたは車か、パソコンか、デジカメとかのガジェット系か、ラジコンか、サバゲーか、自転車のループだ」って言われてて(苦笑)。そのどれかに絶対に戻ると。確かにそうなんですよね。

――そのどれかって、やっぱりものすごい多趣味じゃないですか!

伊藤:そうですか? でも、これだけですよ。あとはゾンビとムエタイぐらい。

――十分過ぎます!

伊藤:ムエタイもハマりましたね。週に5日トレーニングして、プロにやり過ぎって言われたり。疲労で筋肉がおかしくなってもやってましたからね。始めたのは40歳になってからですよ。いまはやってませんけど(笑)。

運動は嫌いじゃないんですよ。ただ、淡々と一定の動きをする運動はモルモットのような気がして嫌なんですよ。だから、ムエタイはハマりました。当時、体重も13kg落ちましたからね。

――連載でもおなじみですが、ゾンビはいつ頃からの趣味なんでしょう。

伊藤:これは歴史が深くて、“伊藤家家訓”ですからね。父親が観てたんですよ。だから、僕は9歳か10歳からゾンビ映画を観てるんです。横浜にガレージを借りてるんですが、その2階がムービールームになっていて、ブルーレイ、DVDが相当量あります。

カスタムではなく、イチから作る!

――伊藤さんの趣味に共通するものというと、どんなことになるのでしょうか。

伊藤:ムエタイとゾンビも趣味ではありますが、基本的には乗り物が好きですね。モーターやタイヤ、それこそ羽根が付いていたらそれだけで興奮しますね。僕がこれまで6台所有してきたサーブもそうです。サーブは、今も『サーブ9-3ヴィゲン』を3台持っていますからね。これについては、連載(“最強のよそ者”伊藤嘉明が語る、趣味のクルマ『サーブ9-3ヴィゲン』)で詳しく書きました。

――今回、撮影した『BUZZRAW(バズロー)』も乗り物ですね。

伊藤:『バズロー』についても、連載(乗り味いいぞー! シンガポールのプロレーサーが生んだファットバイク)で書いたんですけど、あのイカした自転車を作っているコーストサイクルズのヤンセン・タン氏はデザインから製作まで全部自分たちでやっています。それで、シンガポールまで彼らに会いに行って10時間ほど一緒にいて話していて思ったことがあるんです。自転車、自分でも作れるじゃん、って。自分が気に入ったかっこいいパーツを指定して、台湾に行けば優秀なメーカーがたくさんありますから、デザインを送れば向こうでCADで起こして作ってくれるんです。

――カスタムではなくて作ってしまうと。

そうです。メーカーというと、何千台、何万台を作るという感覚ですけど、やり方次第で5台、10台、20台っていうミニマムロットでできてしまう。そうしたら仲間内で楽しめます。いまは3Dプリンターもありますから、メーカーが工場を持って作るという時代も終わっていくのではないでしょうか。

趣味人間が実践した「家族への対処法」

――それだけたくさんの趣味を楽しんでいますが、家族への対処法というのはありますか?

伊藤:あります。まずはまだ結婚していない人へのアドバイスから。僕は結婚前に「僕と結婚したとしても、車とオーディオだけは趣味だからお金かけさせてね」と言いました。大半の女性は車とオーディオが最もお金のかかる趣味だとは知りません。これは結婚後に効きますよ。「約束したよね」って言えますから。

それから、すでに結婚している人は、ずばり忍耐に尽きます。僕自身、努力とか根性とか大嫌いで似合わない人間ですが、趣味における忍耐だけは絶対です。奥さん側からしたら、「私が忍耐なのよ!」って言われそうですけどね。僕は3人の子供がいますが、奥さんが妊娠して入院して退院するごとに、車が変わっていたり増えたりしているわけです。

でも、僕からするとサーブを買うというのは、絶滅危惧種を救っているような感覚なので、夜中にオークションなどでポチッてしまいます。だって、安いんですよ。新車の軽自動車の金額を出せば、何台も買える額ですから。

その新しいといっても中古の車で、奥さんを病院に迎えに行くわけです。「家族みんなが乗れる車にしたよ!」とか、「新車じゃないから贅沢してないよ」とか言うわけです。そしたら、3台目のときは奥さんも無言になりましたね。目では「また買ったの」って言ってましたけど。趣味には、そういう折れない心が必要なんです。

「趣味がない」と嘆くことはない?

――日本人は趣味というと、どこかしら大層な趣味を持たなければいけないと考えてしまう人が多いように思います。伊藤さんは、“広く浅く”いろいろなものがお好きです。

伊藤:いろいろなモノを好きでいいんだと思います。なぜって、人の好きなものなんて、年齢や環境、付き合う人間、出会うタイミングによっても変わります。だから、その方向性はいくらでも変わるはずです。結局は、広いか浅いかなんて関係なくて、大切なのはその人の人生に良い彩を与えられればそれでいいんじゃないでしょうか。

――趣味がないという人も、結構います。

伊藤:趣味がないと嘆く人いますね。でも、そういう人たちに僕は、「気にしなくていいよ」と言ってあげたいです。それこそ、石ころを拾って集めるのだって趣味になると思いますし、ラーメンを食べ歩くのだって立派な趣味。何かエッジの効いたものとか、高尚である必要はまったくないですよ。その時々にちょっと面白いなと思ったものが趣味なんだと思います。僕の趣味が広く浅くというのも、そういうことなんです。一貫性なんてなくていいんです、大事なのは人生の彩ですよ。

趣味の原点にあったのは、「小さな幸せ」

――伊藤さんにとって趣味とはなんですか?

伊藤:僕にとって趣味とは生活の張りですね。だって、大半の人にとって仕事ってつまらないものじゃないですか。僕もそういうところがあります。そういう人間からすれば、趣味の時間は、大変な生活を一瞬でも忘れることができますよね。

だから、趣味というのはスモール・ハピネスでいいんです。ちっちゃな幸せ。僕は結婚したての頃、本当にお金がなくて。借金して大学院に行って、アメリカに行ってということをやっていたので、2人してお金がなくて、週の食費が20ドルなんてこともありました。その頃の僕の趣味はガチャガチャとか、ボトルキャップのフィギュアでした。それを集めて、拾ってきた板切れを棚にして並べたりして。そういう小さな幸せがすごく大切だったんですね。それが結婚したての頃で、25歳の頃。だから、いま奥さんに「あの頃は、ガチャガチャでこんなの出た!って喜んで帰ってきて、それで幸せだったのにね。いまじゃあ……」って言われますけどね、ハハハ。

インタビューを終えて

趣味に対しての懐がとにかく広い伊藤さん。「面白そう!」と思ったものに対するフットワークは驚くほど軽い。その出発点にあったのは、「スモール・ハピネス」だった。日常の中には、見落としているだけで、たくさんの「スモール・ハピネス」があるのかもしれない。そんなささやかな幸せを見落とさないために、いつでも心に遊びゴコロを持っていたいと、素直に思えたのだった。