美術館のようなレストランで「犬神家」チックな料理を。ロンドンの名店「Tramshed」ってこんなところ!

#07

Tramshed
モダンブリティッシュ


イギリス/ロンドン
住所:32 Rivington Street, London EC2A 3LX, England
電話:+44 20 7749 0478
営業時間:月-火:11:30am – 11pm、水-土:11:30am – 12am、日:11:30am – 9.30pm

ホルマリン漬けの牛が中央に鎮座。流行の発信地でアートも食も味わえる

前回、かつてロンドンに現代美術の風雲児ダミアン・ハーストがプロデュースする『Pharmacy』というレストランが存在していたことを書いた。

生と死をテーマにした作品が多いダミアン。処方薬のパッケージを陳列しただけなのに現代美術作品として成立させた彼らしく、この『Pharmacy』はその名の如く外観は薬局そのもの。作品が見事にレストランに表現された、というかこのレストランの存在自体が彼の作品の一つであった。そのうち本当に薬局と間違えて入って来る客が後を絶たず、当局の指導もあってか『Archy Ramp』という名前に変更することを余儀なくされた。

ロンドンの友人の一人でもあるジョナサン・バーンブルックが、当時ダミアンの作品集などアートディレクションを一手に引き受けており、この『Pharmacy』も印刷物はもちろん内装の一部に至るまでグラフィックは全て彼が担当していた。その縁でメニュー、皿や持ち帰り容器へ貼るシール、マッチなど備品のいくつかを譲り受けた。プラダが担当したスタッフユニフォームは手に入れることはできなかったけど……。

その後『Pharmacy』は閉店し、お店の一切合切をオークションハウスSotheby’sで行われたオークションで処分した。そりゃそうだ、アート界の寵児の作品を構成するパーツなのだから。中にはもちろん僕が所有しているものと同じものもあり、それらが恐ろしい値段で取引されているのを見て驚いたものだ。時代の徒花、クリエイティビティの結晶、いまでも事務所の一角に飾って眺めている品々だ。

さて、時を経て2016年のロンドンに『Pharmacy2』というレストランが現れた。ダミアンの所有するギャラリーNewport Street Galleryの一角に、彼の作品と渾然一体となり存在している。まさに『Pharmacy』完全復活。

そしてここを共に手掛けているのがロンドンのスターシェフ、マーク・ヒックスだ。彼とダミアンは『Pharmacy2』以外に、2012年にオープンした『Tramshed』でも関わりがある。

ここにはダミアンの代表作・ホルマリン漬けの牛が、まるで食事する客を眺めているかのように店の中央に鎮座する。ロンドンの流行発信地ショウディッチにして、そんな周りの変化を受け付けないかのように、重厚かつ堅牢な佇まいのこの建物は、路面電車の発電施設だったそうだ。外観に手を入れるには政府の許可が必要とのこと。

このギャップ、まるで歴史ある美術館にコンテンポラリーアートが展示されている様に近いイメージを抱かせる。我々は『Tramshed』という美術館でアートに囲まれ食事を楽しんでいる。

看板メニューの鳥の丸焼きは逆さに盛り付けられ、フォークとナイフが突き刺さり、まるで犬神家の一族のワンシーンのようじゃないか。どうやって食べようかと悩んでしまうプレゼンテーションだが、お店のスタッフに言えばちゃんと取り分けてもらえるのでご安心を。

ギミック満載に思われがちなこのレストランだが、伝統的な調理方法をアップデートさせたことで名声を得たマーク・ヒックスだけに、料理は真っ当に美味い。お会計もリーズナブル。当然の人気店でテーブルは満席なのだが、間際でなければネットで簡単に予約できるのは魅力。ロンドン旅行の際は話題の場所でロンドンらしいアートと一緒に食事というのも一興だろう。

梶原由景(かじわらよしかげ):幅広い業界にクライアントを持つクリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。デジタルメディア『Ring of Colour』などでオリジナルな情報を発信中。

『デジモノステーション』2018年7月号より抜粋。