フェラーリ本社のフィオラノ・サーキットで『488ピスタ』に試乗!麗しき跳ね馬の乗り心地をレポート

 

今月のテーマ
#07 ジュネーブ・サロン Ferrari 488 Pista

世界最高峰のスポーツカーといえば、誰もがフェラーリを思い浮かべるに違いない。事実、世界最高峰のレースの世界で磨かれた技術を元に、王侯貴族やセレブに愛されるロード・ゴーイング・カーを世に送り出している。その中でも特別なモデル『488ピスタ』をいち早くテストすべく、創業の地であるマラネロ本社へ向かった。

フェラーリのなかでも特別な“スペチアーレ”

とうとう、“バケット・リスト”の一番上をクリアしてしまった。フェラーリのマラネロ本社にあるテストコースを、最新の“スペチアーレ(=イタリア語で「特別な」の意)”となる『488ピスタ』で走ったときの個人的な感想だ。

“バケット・リスト”とは、最近のアメリカでよく使われる言葉で、2007年に公開された映画『最高の人生の見つけ方』の原題“Bucket List”に由来している。余命半年を宣言された2人の男性が「死ぬまでにやり遂げたいこと」をリストアップし、それらを実現すべく冒険の旅に出るという筋書きである。この映画のヒット以降、アメリカでは、死ぬまでにやりたいことを挙げて「バケット・リスト」と呼ぶようになった。英語の「バケツを蹴る=くたばる」という言い方をもじって、「くたばる前にやっちまおうぜ!」といった意味合いなのだろう。

当時、駆け出しのジャーナリストだった筆者も、ジャーナリストとして成し遂げたい「バケット・リスト」を作ってみたのだが、今見ても恥ずかしいほど、一生かけても達成できないような夢がリストアップされている。

しかし今回、そのトップにある「フェラーリ本社の中にあるフィオラノ・サーキットを走る」を実現したことに加えて、特別な顧客に向けてのみ生産する“スペチアーレ”なる特別なモデルを発表直後にテストする好機に恵まれたのだから、誌面を借りて浮かれることをお許しいただきたい。

ミラノから小一時間ほどクルマで走ると、モデナ県マラネロにあるフェラーリの本社工場の正門にたどり着く。人口2万人足らずの小さな町であり、1947年にフェラーリが産声を上げた当時は、このあたりは一面の畑だった。
マラネロにあるフェラーリ・ミュージアムには、歴代のF1マシンはもちろん、過去の名車が一堂に会する。

個人的な思い入れはさておき、「フェラーリ」と聞けば、誰もが知るスポーツカー・メーカーであるに違いない。その前身となるスクーデリア・フェラーリは、戦前にアルファロメオのレーシング・ドライバーとして名を馳せたエンツォ・フェラーリによって設立されており、富裕層のためのレースサポートを旨としていた。

1947年に初めて自らの名を冠したオリジナル・モデル『125S』を生み出し、初参戦したレースでいきなり勝利を手中に収めたことで、その名を世に知らしめることとなる。初の市販車となる『250』の生産を始め、レースに参戦するためのスペックを備えて生産された『250GTO』こそが、その後に続く、『288GTO』『F40』『F50』といった“スペチアーレ”の系譜の原点となったのだ。

1963年に製造されたプロトタイプ・レーシングカーであり、フェラーリの記念碑的モデルでもある『250LE ル・マン』 は、セブリング12時間耐久レースとル・マン24時間耐久レースの双方に勝利し、初期のフェラーリを栄光に導いた。
オーバー40のスーパーカー世代にとって、“胸アツ”のモデル『F40』は、1987年にフェラーリの40周年を記念して企画された限定生産モデルであり、エンツォの創業の理念を継承して、「市販車のままでレースに出場できる」ことを目して設計された。最高速324km/hを公称し、当時は世界最速を謳った。

牧歌的な風景を抜けて最新のエンジン工場に潜入取材

ミラノからクルマで小一時間も走ると、一面に畑が広がるような郊外に出る。世界有数のスーパー・スポーツカー・メーカーにして、世界最高峰のフォーミュラー1で覇を競うフェラーリの本社が、本当にここにあるのか? と心配になるほどだ。

実際、マラネロにある本社の正門に降り立つと、創業から変わらぬ、素朴な門構えに驚く来訪者も多いはずだ。

フェラーリ本社からわずか15分ほど走ると、これほど険しい山道になる。エンバーゴ前ということもあって、カモフラージュの塗装のまま公道でのテストとあいなった。

実は、フェラーリはオーナー以外にファクトリー見学を開放してはおらず、メディアといえども、通常はこの門の内側に歩みこむことは許されない。

エントランスの背後に回ると、5つの窓がついた建物が目に入る。エンツォが社長室として使っていた部屋で、来訪者をつぶさに観察していたという逸話が残っている。古色ゆかしい門構えとは裏腹に、内部はわずか7000台ほどの生産台数のために作られたとは思えない最新設備である。

1997年に製品開発センターと空力テスト用の風洞を新設して以降、環境に配慮した工場に生まれ変わるとともに、吊り下げ式の自動化生産ラインなどの最新システムを投入するなど、職場環境の向上プログラムを推進し、イタリアで最も働きやすい工場に選ばれた。

1969年に、フェラーリがフィアット傘下に収まったことをきっかけに、マラネロ本社工場に隣接する果樹園を造成。1972年にフィオラノ・サーキットが完成した。マラネロにある本社工場と同じモデナ県に属し、敷地は隣接しているものの、サーキットのある住所はフィオラノになるため、ピスタ・デ・フィオラノ(イタリア語で「フィオラノ・サーキット」の意)と呼ばれる。

特に今回は、フェラーリのなかでも特別な“スペチアーレ”『488ピスタ』の試乗ゆえに、心臓部であるエンジン工場への取材が許可された。もちろん、搭載される3.9リッターV8エンジンには、大幅な変更が施されている。

『488』では、従来の4.5リッターV8自然吸気エンジンからターボ付き3.9リッターV8エンジンを採用することで、最高出力を+100psの670psへと向上。さらに『488ピスタ』では、ワンメイクレース用のエンジンをスープアップして、720psへと最高出力を高めた。最大トルクは760Nmと、V12エンジンを搭載する『812スーパーファスト』の718Nmを大幅に上回る。

チタン製コンロッド、フライホイールとクランクシャフトといった回転部分を大幅に軽量化して、慣性力を17%も低減した。排気系に1㎜厚のインコネル合金を採用することにより、軽量化に加えて、排気音の向上にも一役買っている。

エンジンで10%ものダイエットにも成功している点も見逃せない。新設計されたチタン製コンロッドは、実際に手にすると、まるで羽のように軽い。その他にも、カーボンファイバー製インテークプレナムを導入するなど、最新のエンジン・テクノロジーの集大成のような設計だ。

さらに、鋳造工場にも足を踏み入れることが許された。高性能エンジンに採用されるニカジル素材はもちろん、アルミやマグネシウムといった軽量素材の鋳造も得意とする。F1用のエンジンも鋳造する施設で、ロードゴーイング・カー向けのシリンダーブロック、コンロッドといった部品の一つひとつを自社生産するという贅沢ぶりだ。もちろん、エンジンの組み立ても、レース用エンジン、市販車に積まれるV12ユニット、V8ユニットも、すべて自社内で行っている。

赤いカムカバーは、フェラーリ・エンジンのお家芸だ。一基一基、熟練した職工の手で組み上げられていく

最高峰のレーシングカーの走る楽しみを提供

前置きが長くなったが、そろそろ『488ピスタ』のエンジンを始動しよう。バラクラバンとヘルメットを装着して、レーシングカー然とした室内に滑り込む。

アルカンターラに覆われたシートは高級感があるだけではなく、滑りにくさと難燃性といった実用性も兼ね備える。スタートボタンを押すと、ミドに積まれるターボ付き3.9リッターV8ユニットが低い唸り声を上げて目覚める。

ジュネーブ・サロンでベールを脱いだ『488ピスタ』は、その外観からしても、歴代スペチアーレに比類する性能を持つことが想像できる。フロントのSダクトとフロントディフューザー、リアにそびえるスポイラーといった空力装備は、F1での経験から得た知見を反映したものだ。これにより、ベースとなる『488 GTB』と比べて、20%ものダウンフォースを増強している。0-100km/h加速をわずか2.85秒でこなし、最高速は340km/h以上という俊足ぶりだ。

完熟走行を終えて、ホットラップに突入する。ハンドルの上にある、ウェット、スポーツ、レース、CTオフ、ESCオフの4モードの中から、CTオフとESCオフをそれぞれ一周ずつ試す。アクセルに載せた右足に力を入れると、スピードメーターが一気に跳ね上がる。エンジン回転数が3500rpmを超えると、排気音も、心臓の鼓動も、一気に高まる。

コーナーの侵入では、わずかなきっかけを作る程度の操舵で、素直に鼻先を曲げていく。タイヤがグリップを取り戻したら、再び、アクセル全開で圧倒的な加速を味わうことができる。

ミドに720ps/780Nmもの高出力エンジンを搭載するゆえに“じゃじゃ馬”を想像していたが、思いのほか、制御しやすい。一度だけオーバースピードで侵入してリアを大きくふったが、十分なインフォメーションがハンドルに伝わってきて、すぐに姿勢を立て直せた。

シャシー側でも、90kgものダイエットに成功した。目に見えるところでは、セラミック・ブレーキ、鍛造ホイール、カーボン製バンパーやボンネットといった軽量素材を使ったパーツをふんだんに奢った。細部では、エンジンベイの遮音材を取り外し、フロントとサイドウィンドーを薄肉化などにより、乾燥重量で1280kgまで軽量化をはかった。0-100km/h加速をわずか2.85秒でこなし、最高速は340km/h以上という俊足ぶりだ。

筆者自身、レーシングドライバーあがりの腕自慢ではないだけに、『488ピスタ』がいかに懐の深いクルマかが分かるだろう。最後のヘアピンを抜けたあと、再び、全開フルスロットルでメインストレートを駆け抜ける。シフトアップは極めてスムーズで、エンジン回転数が7000rpmを超えてもまだ力が湧き出る。

驚くことに、カモフラージュ塗装のままで一般道でのテストも許された。コンフォートな足回りを選べば、荒れた山道でも快適に走ることができる。 限界まで性能を出しきったあと、「オート」でのドライブでは拍子抜けするかと思いきや、日常的な走行でも、十分にドライビング・プレジャーを提供してくれる。

フェラーリのGTテスト・ドライバーを務めるRaffaele De Simone氏による講習を聞いてから、助手席に同乗して完熟走行のレッスンを受ける。その後に、自らステアリングを握ってフィオラノ・サーキットに挑んだ。彼にとっては、自分の家の庭で、自分のクルマを走らせるようなものだけに、助手席での同乗走行で250km/hオーバーの世界を堪能するだけでもフィオラノまで足を運ぶ価値がある。

コンペティションの世界で磨かれた最新技術を駆使して、レースでも、市販車でも、顧客に最高の体験を提供する。それこそが、フェラーリという自動車メーカーが一貫して提供してきた価値であり、富裕層から市井のいちファンにまで広く愛される理由に違いない。

川端由美(かわばたゆみ):自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。International Engine of the Year選考委員なども務める。

『デジモノステーション』2018年7月号より抜粋。