広島の味と言えばお好み焼き…じゃなくて天津丼!?美食家が懐かしむ「蓬莱」思い出の味

#08

蓬莱 サンモール店
中華料理


日本/広島
住所:広島県広島市中区紙屋町2-2-28 サンモール B1F
電話:082-247-1208
営業時間:10:30〜20:00(19:30オーダーストップ)
定休日:サンモールの休日に準ずる

広島でお好み焼きを食べない時はあっても「蓬莱」の暖簾を潜らないことはない。

もう20年くらい前だろうか、当時在籍していた会社の店舗を新規出店させるべく、広島に長期滞在したことがあった。その前に一回だけ友人と広島を訪れたことがあったけど、他にも目的地があった旅の途中で、夜到着して早速「お好み村」でお好み焼きを食べて、翌朝早々に出発するようなものだった。

なんか大きな街だなとは思ったけど、そういう意味では広島をちゃんと体験したのはその長期滞在が初めてに近いようなものだった。当時広島の若い子は保守的というか、あまり心を開いてくれないような部分はあったけど、いろいろ聞き出して一人で飲み歩きしたものだ(彼ら彼女らは付き合いも悪かった。笑)。

その時頻繁に訪れた店の一つが薬研堀の「八昌」。繁華街のど真ん中、それもストリップ劇場の隣にあって、タクシーに乗ったら「第一劇場まで」と言えば良い。いまだったら「八昌」と言えば「どっちの?」というほどの有名店だが(市内に支店もできた)、当時は余裕で入れたし、テレビを見ながら先ずはタン刺しつまみ、次いで牛バラとシロ(ミノ)を鉄板で焼いてもらう。

生ビールが何杯が進んで、後に満を持してソバタマ。焼きそば入りのお好み焼きだ。あの頃はそんなにのどかな店だった。今はどんだけ行列すればいいのか分からないような観光名所となっているけれど。

実はこの時の焼き手が暖簾分けされ、東京の経堂で「八昌 経堂店」を営んでいる。もちろん今はそちらに足繁く通っているわけだ。広島独自の食文化は非常に興味深く、ホルモンの天ぷらなんかもその一つだ。最近話題の汁なし担々麺も最高だ。

その元祖である「きさく」から何度かお取り寄せしたこともある。あと焼肉店では「コーネ」なる部位がメニューに載る。これが独特の食感でなんとも美味いし、ビールに合うことこの上ないのだが、広島以外では見かけることがない。肩バラの一種でいわゆるブリスケットと同じ部位らしいが、即座に首を縦に振れないほど他では味わえないものなのだ。

でも僕にとって広島を代表する味は、意外に思われるだろうが天津丼なのだ。いわゆる日本全国の街中華で提供される品。広島名物と言われているわけでもない。だが、20年前に仕事場のすぐそばにあるショッピングモールの地下で食べた天津丼が忘れられず、広島に来てお好み焼きを食べない時はあっても「蓬莱」の暖簾を潜らないことはないのである。

カウンターだけの店で、無口なご主人がひたすら中華鍋を振り、無愛想な奥さんがオーダーを取り配膳する(その他にも太い菜箸で天津丼の卵の収まり具合の調整とかもやってたけど。笑)。目の前に置かれた丼からはかならず餡が溢れている。迫力のドカ盛り飯。でも、なんとも旨い。チャーハンを食べている人も多く、地元の若者ほど注文しているので、断腸の思いで一回だけ天津丼を諦めチャーハンを頼んでみたが、ただ抜群に量が多い以外に特徴が見当たらなかった(笑)。もちろんそれ以降は天津丼一択だ。

何年か前から厨房の様子が変わり、どうやら経営が近隣のお好み焼き店に移ったと聞いた。支店もできた。そうなるとやはり昔の味が懐かしく思える。レシピは変わってないのだろう、正確にいうと懐かしいのはあの厨房の風景なのだ。思い出も味のうちなのだから。

梶原由景(かじわらよしかげ):幅広い業界にクライアントを持つクリエイティブ・コンサルティングファームLOWERCASE代表。デジタルメディア『Ring of Colour』などでオリジナルな情報を発信中。

『デジモノステーション』2018年8月号より抜粋。