ネットの情報だけで人の死を判断できる?多くの人々が騙されたネット騒動について考える

インターネットの情報だけで人の生死を完全に判定できるか?

ネットはウソが見抜きにくい。人の生死も見抜きにくい

単発のウソを完璧に見抜くのは難しい
複合的なウソを貫くのも難しい

少し前、国際信州学院大学の教職員が「うどんや 蛞蝓亭(なめくじてい)」の貸し切り予約をドタキャンしたという嘘ツイートが大いに拡散した。そもそもが大学も料理店も架空の存在。義憤炎上を狙った釣りツイートで、見事に旗があがった格好だ。

こうした釣果があがるたびにリテラシー育成云々の議論が出てくるが、おそらく未来永劫、この手の巧妙な釣りはうまくいくし、釣られた人は恥ずかしい思いをするのだろう。……と、19年前に米国で起きた「The Final Curtain(最後の幕).com」騒動を頭に浮かべながら思う。

希代のいたずら屋が全米に仕掛けた墓地の一大テーマパーク

The Final Curtain.comは、故人を追悼するための“墓地テーマパークプロジェクト”と称して、1999年に突然インターネットに現れた。サイトにある墓地テーマパークの設計図を見ると、死後に魂がどこに行くのかバーチャル体験するコーナーや、故人ごとの追悼用施設にトンネルを通って行き来する構想などが事細かに説明されている。

「ダンテのグリル」や「天国門カフェ」など楽しげな施設も作るそうだ。多少の不謹慎さを感じるものの、見方によっては画期的でもある。デベロッパーを装った主催者はサイトの立ち上げとともに、出資を募る新聞広告まで打ったことで、本気の計画だと信じる人が続出。一部の新聞社が本物だと信じて報道したりもした。

しかし、企画を練った真の主催者はこの手のいたずらで名を馳せていたジョーイ・スキャッグス氏。本当の出資を受ける前にネタバレし、信じやすい人々――とくに死の周辺に対して信じやすい人々に対して警告する意図があったと明かした。

警鐘はしばしば鳴らされるが、やはり信じやすいもの、というより疑いにくいものが世の中にあふれている。モンスターな客にひどい仕打ちを受けた店もそうだし、死にいたる病を患っていると打ち明けた人もそう。可哀想な思いが先に立ってしまうと、疑念はなかなか抱きにくい。

The Final Curtain.comは現存しており、オリジナルサイトがいまも見られる。

末期がんを装って支援者を集めたニセ闘病ブログの「カバコ」

闘病ブログの負の歴史に詐病騒動がある。たとえばこんな例――。

大阪在住の「カバコ」は、スキルス胃がんで余命1年と告知されたのをきっかけに、2008年10月からブログを始めたという。辛い治療を続けながら、ひたむきに生きる日記には多数の応援メッセージが寄せられたが、2010年を迎えても病状や治療法、薬に関しては濁しながら、元気に飲み会に参加し続ける様子に疑念を持つ読者が増えていった。

そうして近しい支援者数名が本人に会って確認したところ、本人ががんは末期の状態ではなく、すでに「完治」していると白状。ただちにブログの過去記事をすべて削除し、強制的に謝罪文を掲載することになった。

<先ず私の胃癌は完治しております。今は健康です。この事実が全てです。去年胃癌は完治しておりながら皆様には何も告げずに胃癌を装っていました。病気を抱えている方や健康な方の気持ちに嘘を続けてきました。緩和ケアを受ける状態でもありません。ご自身やご家族に末期癌を抱えている方、生命に非常識なこの度の事はお詫びしてもお詫び出来ません。>(原文ママ)

術後5年以上経っていないなら、「完治」ではなく、予後を見守る「寛解」の段階かもしれない。いずれにしろ余命幾ばくもないと欺いていたのは確かで、訴訟をほのめかす意見が出るほど支援者の怒りは大きかった。

病気を騙る心理には、経済的な利益や身の保証といった実利を得ようとする「詐病」のほかに、その場しのぎの「仮病」、関心や同情を得るためにやる必要のない検査や手術さえも受ける「ミュンヒハウゼン症候群」などがある。正確なところは専門家でないと判断が難しいが、ウソの背景に様々な動機があることは知っておいて損はないはずだ。

プロファイリングが危険視されている裏で確立している「森の技術」

本気でしかけたウソを見抜くのは難しい。まして、インターネットのように発信者が発信する情報を細かくコントロールできる媒体では、受け手が100%の正解を出すのは不可能じゃないのか?

そうした問いをあるデータ復旧会社にぶつけたところ「いや、個人の活動歴は端末やネットのアクセスログを解析すればかなり正確に割り出せる」と言われたことがある。

この連載の第14回で言及したとおり、いまはAIを使って特定人物の属性を調べ上げる手法「プロファイリング」が世界で問題視されている。裏を返せば、情報の断片を集めて特定人物の歩みを総合的に判断できる技術が確立しているということだ。実際、一流のデータ復旧会社なら、それに近い技術を使って裁判の証拠素材になるような情報を紡ぐこともできる。

つまり、木を見るより森。単発の情報だけでは判別できなくても、背後の膨大な情報に触れられれば相当正確に物事の真贋が掴めるということなのだと思う。

かつて、Yahoo! JAPANは火葬許可証の写しによって会員の生死を確認する仕組みを終活サービス「Yahoo!エンディング」に実装していた。手続きや準備が煩雑なため、利用者が伸びずに2016年3月末に機能を終了したが、アクセスログの森をしっかりと観察すれば、面倒な作業なしに人の生死も確実に判別できるようになるのかもしれない。

火葬許可証を使った生前準備機能を実装していた当時の「Yahoo!エンディング」。現在は葬儀供養情報を提供するページとして機能している。
古田雄介(ふるたゆうすけ):デジタル遺品の現状を追うライターで、デジタル遺品研究会ルクシー理事。著書に『故人サイト』(社会評論社)『[ここが知りたい!]デジタル遺品』(技術評論社)など。

『デジモノステーション』2018年8月号より抜粋。