見やすいうえに磁気に強い!デスクワーカーよ、今こそセイコーの「鉄道時計」を手にせよ

 

懐中時計はレトロアイテムにあらず
デスクワーカーにこそ、最適な時計だ!

SEIKO
鉄道時計 クオーツ SVBR003
実勢価格:3万240円
問い合わせ:セイコーウオッチお客様相談室
0120-061-012(通話料無料)

今回取り上げたいのは、腕時計ではなく、昔懐かしい懐中時計である。何も、人と差別化するために勧めたいわけではない。セイコーの通称「鉄道時計」は、むしろバリバリのテック系企業で働いている人こそ、持つべきじゃないかと思えるほど、実用性が高いのだ。懐中時計は、決してレトロなアイテムにあらず、である。

戦前から、セイコーは鉄道関係者向けに良質な懐中時計を提供してきた。見た目は地味だが、その高精度なムーブメントは、日本の鉄道に、際立った正確さをもたらすこととなる。搭載するムーブメントは長らく機械式だったが、1970年代にはクォーツに置き換わり、いっそう精度を高めた。

この鉄道時計が、今なお実用的な理由はふたつある。ひとつは、クォーツのわりに力が強いこと。一般的に、電池で動くクォーツはトルクが小さく、太くて長い針を動かせない。しかし、本作の針は、機械式の懐中時計に遜色ないほど立派だ。

理由は簡単で、セイコーはダイバーズウォッチや盲人時計が採用する、大トルクの7Cキャリバーを、本作に与えたのである。正確に比較したわけではないが、おそらく、7Cのトルクは、現行のクォーツムーブメントでは最大級ではないか。

個人的な好みを言うと、秒針はもう少し長いほうが望ましい。しかし、セイコーはおそらく、長い秒針の“ブレ”を嫌ったのだろう。果たせるかな、秒針のかっちりした動きは、クォーツとは思えないほど気持ちいい。

いかにも鉄道時計、といった風情の見た目。スモールセコンドがセンターセコンドに変わった以外、1929年発売のファーストモデルとデザインはほぼ同じだ。直径50.4mm、厚さ13.4mmと、サイズもほどがいい。

そしてもうひとつが、高い耐磁性である。この懐中時計が「鉄道時計」たる所以は、普通の時計とは比べものにならないほど、磁気に強いためだ。たとえば電気機関車の内部は、普通の環境とは比べものにならないほど磁気が強く、普通の時計では簡単に狂ってしまう。そこで鉄道時計の多くは、耐磁性能を高めている。

このモデルも例外ではなく、JISの2種耐磁、つまり約1万6000A/mもの耐磁性を持っている。いわゆる超耐磁時計の標準である約8万A/mに比べると弱いが、日常生活で発生する磁気ならば、ほとんどシャットアウトできるはずだ。

ちなみにこの耐磁性能は、強烈な磁気で動くリニアモーターカーの床に落としても、時計が狂わないレベルだそうだ。つまり時計をよほど近づけない限り、パソコンやスマートフォンのスピーカーが発する磁気で、時計が止まったり、壊れることはないだろう。

しかも、である。最新形の『SVBR003』は、ケースの素材も変わったのだ。筆者はこの鉄道時計を好んできたが、ケースがクロームメッキを施した真鍮であることだけは気に入らなかった。確かに、腕時計ほどラフに使わない懐中時計ならば、柔らかい真鍮でもありだろう。

前作の『SVBR001』ではなく、最新版の『SVBR003』を勧めたい理由がケース素材だ。柔らかい真鍮から硬いステンレスに変わった結果、実用性はさらに高まった。それに伴い価格は上がったが、内容を考えれば十分リーズナブルだ。

しかし、言うまでもなく、錆びにくく、傷つきにくいステンレスのほうが望ましい。筆者の知る限りでいうと、セイコーの鉄道時計は、ようやくケースにステンレスを採用し、実用性を大きく高めた。相変わらず防水性能は無いが、ファーストモデルから’80年以上の歴史を持つセイコー鉄道時計の、これは完成形ではないか。

やはり、昔から変わっていないケースサイドの造形。風防はサファイアクリスタルではなく、昔懐かしいプラスチック製。サファイアの方が望ましいが、価格を考えれば、プラスチックは妥当か。小傷がついたら歯磨き粉で磨くべし。

残念ながら、この時計の良さを分かっている人は、一部の鉄道関係者や鉄道ファン、あるいは一部の専門家に限られる。しかし、時間が見やすく、高い耐磁性を持ち、そして以前よりラフに使えるようになった『SVBR003』は、今のデスクワーカーにこそ、最適な時計ではないか。変なデスククロックを買うよりよほど気が利いているし、なにより、この時計であれば、それこそ何十年も使えるはずだ。

広田雅将(ひろたまさゆき):1974年生まれ。時計ライター/ジャーナリストとして活動する傍ら、2016年から高級腕時計専門誌『クロノス日本版』の編集長を兼務。国内外の時計賞の審査員を務めるほか、講演も多数。時計に限らない博識さから、業界では“ハカセ”と呼ばれる。

『デジモノステーション』2018年12月号より抜粋。

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