「選択肢は2つ、やるかやらないかだけだ」──あのCEOが説く“予測不可能な時代を生きる哲学”とは

漠然とした不安、不満があるならば、自分の主観を信じて動く。
選択肢は2つ、やるかやらないかだけだ。

いま20〜40代で頑張って仕事をしている人の中には、会社への不安や不満、自分自身の仕事への不安、将来の見通しがつかないことへの不安を持つ人は少なくないと思う。それは正しい。そういった不安を抱かない方が不自然だ。

もともと日本では年功序列及び終身雇用が当然とされていた。新卒で入社し、同じ会社のなかで経験を積み、仕事を覚えて、出世していく。その前提にあるのは、経済が成長していく、つまり会社も成長していくという希望だ。

戦後日本の復興を支えた様々な業界、かつての花形業界、企業たち。しかしいずれも時代の流れとともに苦境に陥る。リストラという名のコストカットが行われる。そこで転職した人、職を失った人は、被害者だとされた。本当にそうだろうか。

働いていて、環境の変化に気がつかなかったはずがない。それでいて、「このままではいけないのかもしれない」という漠然とした不安や違和感を抱えていながら、何もしなかったに過ぎない。各々が抱えていた不安や違和感はきっと本物だっただろうに。

それは会社への、あるいは業界の先行きへの不安、違和感だったかもしれない。この業界は、会社は、自分の人生を賭けるに値するのか。ずっと成長していくのか。あるいは安泰なのか。

ありえない。あなたが働くこれから10年20年という時間の間に、成長し続けたり、安泰であり続ける業界や企業などまず存在しない。つまり、就職・転職時に会社を選ぶ際、「安定している会社かどうか」はほとんど意味をなさないのだ。

例えば、20年前に三洋電機、シャープ、東芝に入社した人は、各社がいま置かれている状況を予想し得ただろうか。おそらく就職が決まった当時、知人や親類から「安定した大きな会社に入れておめでとう」と祝福されたことだろう。それがいまは、ご存じの通りの状態だ。

ここで大切なことは、「安易に人の意見を聞くな」ということだ。仮にいま転職しようとしていてどれが良いか迷っているとき、他人に聞いても答えは出ない。「この業界は勢いがある」であったり、「この会社は利益が出ている」「社員の満足度が高い」といった言葉は引き出せるかもしれない。

では、それを信じて転職し、数年後にその会社が傾いたら。何が起こるかわからないのがVUCAの時代、いわゆる予測不能の時代だ。いまに不安を覚えているならば、変化を求めた方がいい。いま、まったくもって自分が置かれた環境が安泰だと思うならば、周囲をきちんと見た方がいい。

ここで心がけて欲しいことが、「ビッグピクチャーで考える」こと、そして「主観を大切にする」ことだ。ビッグピクチャーとは文字通り、大きな絵だ。会社選びだけでなく、人生のあらゆる局面でこの2つは大切になってくる。

転職しようと考えたとき、多くの人は「今までの経験を活かした仕事をしたい」と思うだろう。自分にできること、自分が経験してきたことを第一に考える。しかし、それを“小さなこと”として一旦、横に置くのだ。そうではなく、ビッグピクチャーで考える。

いま地球規模でどんな変化が起こっているのか。経済はどう動いているのか。そして一番大事なのは、「自分は将来どうなりたいか」「どんな仕事をしたいか」だ。そこに過去の経験やいまできることは関係ない。

2つ目は「主観を大切にする」。私はキャリアのなかで転職を重ねてきた。転職するかどうかの判断基準は、「自分がやりたいことにマッチしているか」だ。

私は若い頃から、経営者だった父の背中を追っていた。そのため、「自分も経営者になり生まれ育った東南アジアに貢献する」ことが、一つの目標であり、それを追うのはごく自然なことだった。「それは自分が経営者になるために有効か」という視点が判断基準にもなっていた。そこでは他人の意見は関係ない。「その業界は斜陽産業だ」と言われても、迷うことはなかった。

実際、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントに入社したときがそうだった。当時、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントジャパンは世界中にある61カ国のソニー・ピクチャーズグループの中で61番目、最下位の成績だった。そしてDVD業界はすでに斜陽産業だった。

前職はアディダスジャパンで上席執行役員バイスプレジデントとして営業を統括。アディダスが1000億円企業だったのに対し、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントのホームエンタテインメント事業は100億円企業でしかなかった。

業界も利益率もビジネスモデルも違う会社を比べることに意味はないのだが、一般的な感覚としては売り上げ規模だけで判断する人もいるだろう。ましてや斜陽産業だ。周囲の人は、全員反対した。

しかし、私は「面白そうだ」と感じた。自分にできることがありそうだというイメージを作れたのだ。本当にやるべきことをやっていないから斜陽になったのではないかと、と疑問を持ったのだ。DVDは1枚数千円で販売されているのに、同じものをレンタルすればたったの300円だ。発売から数週間経つと、同じものを数分の1の値段で買えてしまう。これはおかしい。こんな構造はありえない。

私から見ると、この売り方全てが最初に大枚をはたいて購入してくれるお客さんを舐めているとしか思えなかった。あたかも「最初に高い値段で買う奴が悪い」とまで言えるような商売の仕方である。そのような客を舐めきった商売の仕方が映画ソフト産業自体を斜陽産業にしたのではないか?

他にもインターネット上でのフリー動画の到来等あるだろうが、前述したことが問題の根底にあると私は思った。そこを根本的に変えていかないといけない。この大手術は業界の慣例や常識にとらわれていては不可能だ。外部から入るリーダーとしてそれを実行すべきと考えたのが当時転職を決めた理由だ。

おかしい、と思ったらやる。できる、できないではない。全てはやるか、やらないかしかない。私は常にやる、を選択したい。やらなかった後悔はおそらく死ぬまで追っかけてくるだろうから。

伊藤嘉明(いとうよしあき)/X-TANK CEO。世界のヘッドハンターが動向を注視するプロ経営者。ジャパンディスプレイのCMOも兼任。著書『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社/1620円)など。

『デジモノステーション』2019年1月号より抜粋。