そのキーボード必要だった?2000年代初頭、世界で喝采を浴びたPDA「Treo」が中国で流行らなかった理由は?

今月のヘンタイ端末はこれだ!

CECT
Treo 270
販売価格(当時):約7万円

世界で売れた名機 中国企業名で販売
誰も使わないキーボード搭載

2000年初頭の頃はまだスマホという言葉は存在せず、携帯電話機能を内蔵した高性能なPDA(パーソナルデジタルアシスタント)が複数メーカーから登場していた。

ハンドスプリング社が出していた「Treo」もそんな製品の一つ。2002年発売の『Treo270』はカラーディスプレイを採用し、フリップ式の上蓋を搭載。これ1台で電話も掛けられカラー画面でWEBページも見ることのできる、当時としては最先端の端末だった。

Treoはその後、パーム社に買収されカメラを搭載し、3Gに対応するモデルが登場。2008年までほぼ毎年新製品が登場するロングセラー製品となった。

この『Treo270』はその後ひっそりと中国でも販売された。ところがハンドスプリング社からではなくCECT社という全く別のメーカーから登場したのだ。

CECT(中電通信)は携帯電話などを相手先ブランドで製造しており、おそらくこの『Treo270』も同社が製造元だったようだ。ハンドスプリングが中国で端末を販売する権利を持っていなかったため、製造元メーカーのブランドで市場に出てきたようである。

オリジナルの『Treo270』との違いは、フリップ部分にCECTのロゴが入っているくらいに見える。ところが、全体的に製品の作りがチープなのである。『Treo270』の本体はダークグレイのやや高級感ある樹脂素材製だが、CECT版は明るいシルバーでいかにもプラスチックとわかる色合いだ。

もちろんハンドスプリングのロゴとTreoの名前が入っているので、これを見て偽物と思う人はいないかもしれないが、オリジナルのTreoシリーズを使いまくっている人たちは中国製のコピー品と感じるだろう。

フリップカバーを開けるとQWERTYキーボードが現れるが、これもオリジナル版とは全く異なる素材のものが組み込まれている。白地に英字が印刷されてはいるもののチープな仕上げ。どこかの工場が片手間に作ったような仕上がりだ。ボディーはかろうじて高級な仕上げだが、このキーボードとの組み合わせでそれも台無しになってしまっている。

そもそもスマホの無い時代、中国では10キーを使った文字入力が一般的。高価格なPDAはスタイラスペンを使った手書き入力が主流だった。この『Treo270』もペン入力が可能なので、中国のユーザーもキーボードを使うことは無かったのだろう。ならばキーボードを廃止して全画面にすればよかっただろうが、当時の技術とコストでは大型ディスプレイの搭載は不可能だったのだ。

Treoシリーズは世界中で売れまくり、日本にも愛好者がいたほどだった。だが、中国ではメジャーになることもなく、歴史の1ページを飾ることもなかった。

そして2000年中盤にノキアのスマホが世界中で主流になると、Treoの販売数は急落した。いまもタッチ画面+キーボードという製品はブラックベリーが存在するが売れ行きは思わしくない。スマホの歴史の中でTreoが消えていったのは必然のことだったのだろう。

山根康宏(やまねやすひろ):香港在住のジャーナリスト。世界の携帯電話事情を追い求め、1年の約半分を海外で過ごす。携帯電話1500台、SIMカード500枚以上を所有するコレクターでもある。

『デジモノステーション』201年1月号より抜粋。