え、モーターショーなのにクルマの展示がない!?自動車の未来がわかるカリフォルニア「LA Auto Show」レポート!

 

今月のテーマ
#12  LA Auto Show

アメリカ車の故郷で開催されるデトロイト・ショーと並んで重視されるのが、アメリカで最も厳しい環境法を敷くカリフォルニア州で開催されるロサンゼルス・ショーだ。加えて、富裕層のための高級車やオープンカーといった華やかなモデルが登場する。近年、シリコンバレー発のテクノロジーまで加わり、ますます注目度が高まっている。

クルマのない展示で、“未来の移動”を見せるボルボ

プレミアム、デザイン、グリーン、テクノロジー、そのすべてが揃うのがロサンゼルス・ショーであり、カリフォルニア州にはそれらを推進する要素が詰っているのだ。

事実として、ハリウッド・スターに代表される世界有数の富裕層が集まるエリアであり、世界中の自動車メーカーがデザイン・スタジオを設けることでも知られている。

加えて、カリフォルニア州では1970年代のマスキー法の時代から自動車の排ガス問題に取り組んでおり、今も、ZEV法という先進的なエコカー施策が敷かれる。EV、PHV、ハイブリッド・カーといったエコ・コンシャスの高いクルマも、ここカリフォルニアから発信されている。最近では、シリコン・バレー発の自動運転やコネクテッドといったテクノロジーの震源地でもある。

ショーの花形である新車については、8代目となるポルシェ『911』、メルセデス・ベンツ『AMG GT R PRO』、マツダ『3』と目白押しだが、あえてボルボの「車両のない展示」からリポートをしていこう。前評判もあって、記者発表には黒山の人だかりができていた。

「モーター・ショーでは、伝統的に消費者の興味を惹くために新車を展示してきましたが、近年、消費者の興味を惹くのは『体験』です。ボルボとして、どのような体験を提供するのかというメッセージを明確に伝えるために、あえて『車両を展示しない』という選択をしました」(ホーカン・サムエルソンCEO)

ホーカン・サムエルソン氏
ボルボ・カーズ CEO
1977年にスカニアに入社し、重責を歴任後、1996年に取締役に就任。 2000年にマンに移籍後、2005-2009年に渡ってCEO兼会長を務めた。ボルボ入社後は、欧州、中国の自動車技術部門を担当し、2012年からボルボCEO兼会長に就任、現在に至る。

実際にブースには1台のクルマもなく、中央のオブジェに“THIS IS NOT A CAR”の文字が浮き上がる。

ボルボのブースには車両が展示されておらず、“THIS IS NOT A CAR”の文字が浮き上がって見える木製のオブジェが中央に鎮座していた。

自動運転で重要な役割を担うLiDARのスタートアップ「ルミナー」との提携、グーグルの次世代インフォテインメント・システムの共同開発、荷室に荷物を宅配するアマゾン・キーとの提携、VRを使って未来の移動を体験するコーナーが設けられていた。

創業者であるオースティン・ラッセル氏が23歳の若さということも話題を呼んだLiDARのスタートアップ「ルミナー」のセンサーを使って、会場を横切る人や展示物などが3Dマップに描き出すデモンストレーション。従来、LiDARの主流だったベロダイン製が128個ものレーザーを必要とするのに対して、ルミナーではわずか2個のレーザー(写真右の小さな四角いボックス)で250m以上の遠距離まで見渡せる。LiDARを使って3Dマップを生成することに加えて、AIにより学習する機能も備えており、歩行者や自転車などの分別をクルマの頭脳に教えることができる。

アマゾン・キーは、ワンタイム・キーで自宅に荷物を届けるサービスで、アメリカではすでにローンチしている。ボルボでは、自動車のトランクだけを開けるワンタイムキーを発行して、荷室に荷物を届けることを想定している。これにより、自宅よりセキュリティ面で安心できる仕組みとなる。

早速、VRデバイスを装着して、未来の移動を体感した。自動運転が当たり前になり、日々の移動では向かい合って座り、会話を楽しめる。遠出の際には、ゆったりと眠れるシートアレンジで、朝起きたら目的地に着いている。自分で運転しないと、移動が味気なくなることを懸念する人も多いが、自動運転時代ならではの移動の自由を考えることも重要だ。

東の横綱となるか?
ボストン生まれのEVスタートアップ

もう一つ、本誌読者にとって大いに気になるであろうEVスタートアップがデビューを果たした。EVスタートアップ業界における“西の横綱”をテスラとするなら、“東の横綱”候補として躍り出たのが「Ravian」だ。

西海岸のスタンフォード大同様、東海岸のボストンでスタートアップを多数排出するマサチューセッツ工科大の出身者が創業メンバーに名を連ねる。ショー会場では、アメリカで人気の高いSUV『R1S』とピックアップ・トラック『R1T』の2車種を発表した。

『R1T』がピックアップ・トラックなのに対し、『R1S』は7人乗りのSUVだ。後者のボディ・サイズは全長×全幅=5040×2015㎜で、電動パワートレインやオフロード性能は『R1T』と同様だ。オフロード性能の頼もしさを強く意識させる直線基調のインテリア・デザインを採用し、コックピットには中央の大型タッチ式ディスプレイが鎮座し、未来感の演出にも余念がない。

詳細な解説に移る前に、アメリカの人気車種について、座学を少々。全米で最も売れるクルマがフォード『F-150』であり、最上級モデルは7万ドルを超える。SUVが都会派の男性や女性にも人気があるのに対して、ピックアップ・トラックは男の中の男が乗るクルマという印象だ。

『R1T』のボディ・サイズは、全長×全幅=5475×2015㎜と、アメリカのフルサイズに属する。搭載されるパワートレインは、もちろん、電気で駆動する。4基の電気モーターの総合で、最大750hp/14000Nm(!)もの強大な出力を誇る。

わずか3秒程度で、停車から96km/hまで加速する俊足ぶりだ。ピックアップ・トラックに必須の牽引力は5トン、積載は800kgを誇る。135-180kWhもの大容量のリチウムイオン電池を搭載し、320-640kmの巡航距離を確保する。180kWhの最上級モデルでは、1回の充電でサンフランシスコからヨセミテ公立公園までノンストップで走ることができる。

もちろん、オフロード性能も万全だ。360mmのグランドクリアランス、34度/30度のアプローチ/デパーチャー・アングルは、ライバルと目されるフォード「F-150ラプター」に匹敵する。同時に、センサー類は、カメラ、レーダー、ライダー、超音波センサーを組み合わせを搭載し、高速道路におけるレベル3となる自動運転の機能を備える。

2020年からの量産をアナウンスしており、元三菱自動車のイリノイ州ノーマル工場をすでに確保している。6万1500ドルからスタートする価格帯も含め、アメリカのEV市場に風穴を開けそうだ。

床下に電動パワートレインを備えるため、フロントに330L、後席下のギアトンネル部分に350Lの荷室をエクストラで確保できる。

採用した電池は、テスラのギガファクトリーと同じ円柱型の「2170」だ。最大の容量を誇る180kWhのモデルでは、12モジュール、1万個以上のセルが使われる。

カリフォルニアの人たちが望むモビリティを提案する

カリフォルニア州で販売するクルマのうち、一定以上の割合で電動モデルを売らなくてはならないという「ZEV規制」を意識した電化の動きも激しい。

アウディが電動モビリティ第3弾となる『e-tron GTコンセプト』を、BMWが完全自動運転のEV『ヴィジョンiNEXT』を、それぞれ発表した。スバル『クロストレック(日本名『XV』)』のPHV版は、日本仕様のハイブリッド機構『e-ボクサー』がスバル独自開発であるのに対し、トヨタのハイブリッドをベースに設計された。気になる違いを訊いてみた。

アウディの電動ブランドである「e-tron」シリーズの第3弾となる『e-tron GT』は、2年後に量産が予定されるピュアEVの4ドアGTだ。2基の電気モーターの合計で434kWの出力を誇り、トルクベクタリング付き4WD機構を搭載する。全長×全幅×全高=4.96×1.96×1.38mのボディサイズながら、カーボンやアルミといった軽量素材をふんだんに奢ることで、0−100km/hまでわずか3.5秒で加速する。

「『e-ボクサー』では走りを重視したのに対して、今回発表した『クロストレック』のPHV版は低燃費性能に重きをおきました。カリフォルニアのお客様にとって、渋滞を緩和するためのカープールレーンを走ることができるかは重要な指標であり、その認証を重視して開発したからです。といっても、走りを犠牲にはしていません」(スバル常務執行役員・商品企画本部長 臺 卓治氏)

臺 卓治氏
スバル常務執行役員・商品企画本部長
「トランスミッションの中にハイブリッド機構を組み込み、水平対抗エンジンと組み合わせることで、カリフォルニアの先進的なエコカー規制に対応しながらも、電池の重さを逆手に取って前後の重量バランスを良くして、走りの魅力を引き出しました」(臺氏)

最後に、モーターショーの真骨頂である新車を駆け足でご紹介しよう。最大の注目は、フルモデルチェンジを果たしたポルシェ『911』だ。『992』のコードネームで呼ばれる新型でも、2灯式ヘッドランプと張り出したリア・フェンダーといった“911らしい”アピアランスは継承している。もちろん、リアに水平対向エンジンを搭載し、後輪または4輪を駆動するという伝統も守られている。

0-100km/h加速は、先代と比べて、0.4秒速まり『911カレラS』で3.7秒、『911カレラ4S』で3.6秒という俊足ぶりだ。「スポーツクロノパッケージ」をオプションで装着すれば、さらに0.2秒の短縮が可能だ。最高速は、『911カレラS』で308km/h、『カレラ4S』で306km/hを誇る。

『911カレラS/4S』のリアに搭載されるターボ付き3L水平対向6気筒エンジンでは、ターボチャージャーのレイアウトや燃料噴射システムなどの改良に加えて、新開発の8段ディアルクラッチ・トランスミッションと組み合わせることにより、+30psのスープアップを施された。

マツダの新世代デザインを纏うことで大きな話題を呼んだ『マツダ3(日本名未定)』は、5ドア・ハッチバックとセダンの両モデルが揃い踏みだ。

「今後、数年の間に“マツダ・プレミアム”とはなにか?と見せていきます。耐久性の高さや手の届く価格帯を保ちながらも、品質、デザイン、『スカイアクティブX』エンジンによるパフォーマンスといった点を高めていくことにより、“マツダ・プレミアム”を実現していきます。マツダの次世代パワートレインを搭載し、新世代デザインを纏う新型『マツダ3』をロサンゼルス・ショーで発表することが、その第一歩と考えています」(マツダモーターオブアメリカCEO・毛籠勝弘氏)

毛籠 勝弘氏
マツダノースアメリカンオペレーションズ社長兼CEO
1983年にマツダ株式会社に入社後、マツダモーターヨーロッパ副社長、執行役員、常務執行役員を歴任。2016年からマツダノースアメリカンオペレーションズ社長兼CEOに就任。

アメリカの中でも先進的な地域だけあって、広い視野から自動車の未来を眺めることができるのがロサンゼルス・ショーの美点である。

川端由美(かわばたゆみ):自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。International Engine of the Year選考委員なども務める。

『デジモノステーション』2019年2月号より抜粋。