取材歴30年のベテランに聞く!「ツール・ド・フランス」が世界三大スポーツである理由

誰が言ったか知らないが、世界三大スポーツといえば、オリンピック、サッカーW杯、もう1つがツール・ド・フランスと言われている。大会運営の規模、費用、人手がそれだけ大規模だからなのだが、ではなぜ、ツールがその規模に見合うほど人を惹きつけているのか。ツール取材歴30年の山口和幸さんに、その理由を聞いた!

【Profile】

山口和幸さん:スポーツジャーナリスト
ツール取材歴30年の大ベテラン。これまでに訪れたフランスの都市は、のべ800都市。フランス国内だけで地球3周分を走っている。毎年7月はツール取材のため、この30年というもの日本の7月を経験していない。

すべてのプロスポーツは、ツール・ド・フランスに通じる!?

「そもそも近代オリンピックもツール・ド・フランスもどちらもフランス人が作ったものです。フランスのクーベルタン男爵が構想を語り、1896年に第1回大会が開催されました。その7年後の1903年に同じくフランス・ロト紙(現在のレキップ紙)の編集長アンリ・デグランジュが、新聞の販促のためにフランス全土を走る自転車レースを始めたのです」

オリンピックはフランス人が作ったからこそ、開会式などの場内アナウンスは最初にフランス語が流れ、次に英語、最後が開催国の言語となっている。やるな、フランス人!

「ただ、ツールがすごいのは、現在のプロスポーツでは当たり前となっている様々なシステムを初めて取り入れたことです。まず、世界で初めて商業化したスポーツイベントです。黎明期から選手のジャージにはスポンサー企業のロゴが縫い付けられました。一方のオリンピックは1984年のロス大会まではスポンサーなんてご法度でした。他にも、スポンサー企業が観客にノベルティグッズを配って回るキャラバン隊を考案したのもツールです。W杯などのアリーナ競技で、企業がブースを出店するのもこの発想ですね。それから、レースのスタートとゴールの街から協力金を得るなど、地域を巻き込んで収入を得るということもツールが最初でした」

そうした商業的な成功はもちろんだが、ツールにはスポーツの枠を超えた魅力があると山口さんは言う。

「ツールは旅と似たところがあって、フランス全土にわたって地域との交流があり、その土地の文化や経済を見ることができます。しかも、2日に1回ぐらいは世界遺産の前を走ったりして、その素晴らしい景観を放送を通して世界に向けて発信していますしね。ツール・ド・フランスが世界一の自転車レースになったのは、地形的、文化的、歴史的な魅力があるフランスで行われているからだと思います」

ツール・ド・フランスにまつわる数字がエグい!
走行距離:3500km
ツールは23日間、全21ステージで行われる(休息日が2日ある)。文字通りフランスを1周するのだが、総走行距離は約3500kmにもなる。ちなみに、日本の本州の北から南(青森県大間〜山口県下関)で約1300km。

テレビ中継:190カ国
世界三大スポーツと呼ばれる理由の1つとも言える、放送される国の数が突出しており、世界190カ国で放映され、そのうち生中継が60局にものぼる。日本ではJ SPORTSで全21ステージを生中継している。

消費カロリー:10000kcal
1ステージの距離は平均で約160km。それもただ走るのではなく平均時速40km前後という速さで走る。そのため、消費カロリーは8000〜1万kcalにもなる。選手がレース中に食事をしながら走る姿が見られる。

獲得標高数:5000m
アルプスやピレネーを登る山岳ステージともなれば、2000m級の山をいくつも超えることになる。2018年大会の第12ステージでは、アルプスの山々を登り、登坂距離は計65km以上、累計獲得標高は5000mにもなった。

最長距離:230km
全21ステージには山岳や平坦、短距離のタイムトライアルなど様々なコースがあるが、最長距離のステージともなると1日に230km前後にもなる。それをせいぜい5時間程度で走ってしまうのだからすごい。

初開催:1903年
1903年にスポーツ新聞ロト(現在はレキップ)を全国展開するためのマーケティングとして第1回大会が開催。当時は変速機もなし、距離も1日400kmという過酷さ。ちなみに第1回箱根駅伝(1920年)より古い。

最高時速:100km超
プロロードレーサーの下りの技術は半端ではなく、峠の頂上からガードレールもない下り坂を風の抵抗を減らすために体を縮こませてかっ飛ばす。最高時速は100kmにもなる。TVで見ていてもヒヤヒヤする。

沿道観客数:1500万人
サイクルロードレースは、スタジアム競技ではないため、沿道にファンが詰めかける。選手の速度が落ちる山岳コースでは、1つの山に100万人もの観客が集まることも。沿道の観客数は1500万人を超える。

アルプス、ピレネー、パリ、世界遺産
風景が世界一美しいレース


ツール・ド・フランスは、レース展開を読みながら見る楽しさはもちろんあるが、コース周辺の風景の美しさには目を見張るものがある。レースの集団を追うヘリコプターからの映像は、環境映像としても見応えがある。J SPORTSでは、古城や世界遺産など、コース沿いの見どころの解説もあり、歴史好きならずとも思わず見入ってしまう。そして、山岳コースで登場する山々は、見る人を旅へと誘うような美しさでそびえるのだ。

1985年を最後にフランス人優勝者はゼロ……
悲願の総合優勝を担う注目の若手

フランスの歴史ある大会でありながら、1985年のベルナール・イノー(フランスの英雄、日本で言えば長嶋茂雄的存在)が優勝して以来、フランス人の総合優勝者は出ていない。近年、メキメキと力をつけ、総合優勝もちらついてきた注目の若手選手を紹介しよう!

【Profile】
痩身のクライマー
Romain Bardet/ロメン・バルデ

1990年生まれ。フランスのチーム・AG2R ラ モンディアル(アージェードゥーゼルと読む、フランスの年金共済組合)の若きエース。ツールでは2016年総合2位、2017年総合3位とポディウム(表彰台)に登っている。2018年の世界選手権でも2位と着実に実力を伸ばしてる。ちなみに、法学位と経済学位を持つ頭脳派でもある。

熱きイケメン
Julian Alaphilippe/ジュリアン・アラフィリップ

1992年生まれ。ベルギーのチーム・クイックステップ・フロアーズ所属の期待の星。プロ2年目にして、米国開催のレース、ツアー・オブ・カリフォルニアで総合2位、翌年総合優勝を果たし、ツールでの総合成績上位も期待される逸材。2018年のツール第10ステージの山岳コースで初のステージ優勝を飾り、最終的に山岳賞を獲得。

選手到着前のド派手な車列
キャラバン隊がハンパない!


選手たちが通過する1〜2時間前、大会スポンサーの各企業が趣向をこらした、ド派手な車両がキャラバンを組んでコースを通過する。数十台にもおよぶパレードのようなキャラバン隊の車列からは、帽子や応援グッズ、Tシャツ、お菓子など企業のノベルティグッズが沿道のファンに向かってばら撒かれる。それらを身につけたファンがテレビに映ることで、企業は広告効果を望めるというわけである。


選手と観客の距離が近すぎるツールの興奮度

山岳エリアでは自転車の速度が落ち、選手同士の駆け引きも激しくなるため、多くの観客は山を目指す。何時間も選手を待ちわびた観客の元へ選手が来ると、そこは興奮のるつぼと化す。怒号のような応援の中、自転車1台分だけ空いた道を選手は登るが、選手の背中を押すファンもいる。そんなスポーツ、他にある!?

憧れのロードバイク2大ブランド
LOOKとTIMEはフランス製!

フランスを代表するロードバイクの2大ブランドLOOKとTIMEは、世界中に数あるブランドの中でも特別な存在。ロード乗りが「いつかは乗りたい!」と憧れる高嶺の花でもある。そんな2つのブランドについて紹介する。

LOOK
795 LIGHT RS
フレーム単体:62万円

現在、レースの世界で使用されるカーボンフレームを1986年にいち早く導入し、そのバイクに乗ったグレッグ・レモンのアメリカ人初となるツール総合優勝に貢献した。常に革新的な技術を導入している。元はロード用のビンディングペダルを開発しており、現在も愛用するプロ選手は多い。写真のフラッグシップモデル、795 LIGHT RSは幾多の風洞実験を経て生まれた、究極のエアロロードと評される。

TIME
SCYLON
フレーム単体:52万円〜

現在、プロツアーチームへの機材提供は行わないものの、かつてTIMEのカーボンフレームバイクに乗り数多くの名勝負で勝利した選手は多くおり、口々にこのブランドを褒め称える。1本のカーボン繊維を編み込み作られるチューブは、航空機やF1にも採用される技術で、すべてフランスでハンドメイドされている。写真のフラッグシップモデル、SCYLONは乗り手の力を引き出し推進力へと変えてくれる。

【2019年は間違いなくフランスが来る!】

フランスには、誰もが憧れを抱くオンリーワンの魅力がある。
その証として、観光地としてはもちろんのこと、クルマ、時計、インテリア、ファッション、はたまたテクノロジー界隈などどの角度から眺めても、他の国とは違うイケている要素が必ず見つかるのだ。今はたまたまデモなどの影響で、パリの街を中心に荒れた映像が流れている。だが、フランスに対する多くの人々が持つ、秘めたる想いは変わらないだろう。2019年は間違いなくフランスが来る!

関連サイト


J SPORTSでは2019年もツール・ド・フランスを全21ステージ生中継!

『デジモノステーション』2019年2月号より抜粋。