ファン・トゥ・ドライブのために生まれたクルマ ! アルピーヌ『A110』が楽しすぎる

2018年に発売されたスポーツカーの中でも、とりわけクルマ好きからの大きな注目を集めたのがアルピーヌの『A110』。スペックだけを見ると、突出してハイパワーなわけでもサーキットのタイムが速いわけでもない。流行りの電子制御技術もほとんど搭載されていない。そんなクルマがなぜそこまで話題になるのか? 実際に公道とサーキットで試乗して体感してみた。

かつての名車の魅力を現代の技術で再現

アルピーヌ『A110』と同名のモデルは1963年〜1977年にも生産されていた。1970年代にラリーを席巻していた(1973年にはWRCの年間総合チャンピオンに輝く)姿を思い浮かべる人もいることだろう。リアにエンジンを搭載したRR(リアエンジン・リアドライブ)のレイアウトに軽量なFRP製のボディを搭載し、約730kgという軽さを武器にラリーを中心に多くのモータースポーツで活躍していた。

今や伝説の名車とも呼べる初代『A110』。ブルーの車体にelfとCIBIEのステッカーが眩しい。

新型『A110』は、このかつての名車を現代の技術で再現したもの。エンジンの搭載位置はミッドシップとなり、ボディはアルミ製とされているが、パワーを求めるのではなく、軽さを活かした走りを目指している点は共通。新型『A110』の車重は現代のスポーツカーとしては非常に軽量な1110kgに抑えられている。

発表会で顔を揃えた新旧『A110』。フロントフェイスやテールのラインなどのイメージも共通している。

全ては走る愉しさのために

前述のように、開発コンセプトは現代の技術で『A110』を作ることなのだが、その中心に置かれたのは「ファン・トゥ・ドライブ」。新型『A110』は、クルマを運転する愉しさという、この言葉を体現するためだけに作られたといっても過言ではない。軽量な車体もそのための要素の1つで、オールアルミのモノコックという手間もコストもかかるボディも、この愉しさを実現するために採用されたものだ。

軽量化の工夫はシートにも及ぶ。専用に作られたバケットシートは1脚13.1kgという軽さ。もちろん、リクライニングはしない。

もう1つ、ファン・トゥ・ドライブのために開発陣がこだわったのがボディの重心位置。車体の中央、ドライバーのちょうどお尻の位置に重心がくるように設計されている。これが“意のままにクルマを操る”ために重要なポイントなのだとか。

前後の重量バランスは44:56とされ、ドライバーの着座位置に重心と一致する設計になっている。

エンジンは1.8Lの4気筒ターボ。ルノーの『メガーヌR.S.』に搭載されているのと同じものだが、出力は262PS/6000rpmと『メガーヌR.S.』よりも低くなっている。これもパワーよりも扱いやすさや愉しさを重視した結果。こんなところからも、スペック上の数値よりも愉しさを重視する姿勢が感じられる。

車体の中央にエンジンを搭載するミッドシップレイアウト。エンジンはコンパクトで扱いやすい。

そのまま乗って帰りたくなる愉しさ

実際に乗ってみると、その開発コンセプトが見事に体現されていることが感じられる。まずは一般公道での試乗で、状況としてはそれほどスピードを出せるわけでもなく、渋滞もあったものの、どんなシーンで乗ってもとにかく楽しい。重心位置がドライバーと一体になるように設計されているだけあって、ハンドルを切れば思いのままに曲がるし、ハイパワー過ぎず上まで回せるエンジンも気持ちいい。これまで色々なクルマに乗ってきたが、一番愉しかったクルマを問われたら、間違いなくこの新型『A110』の名を挙げるだろう。

今回試乗した新型『A110』。「ピュア」というグレード名の通り、豪華な装備はなく走りに徹した設計だ。
コックピットはほどよくタイトで、メーターの視認性やハンドルなどの操作性も良好。
2ペダルのセミオートマなので市街地でもストレスが少ない。パドルシフトの操作感も気持ちいい。

続いてはサーキットでの試乗。軽くて思いのままに動く車体と、官能的に回るエンジンの組み合わせが愉しくないわけがない。短い周回だったが、そのままずっと走っていたくなる面白さだった。

コーナーは意のままに車体が動くし、パワーがほど良いので思い切りアクセルを踏める。

その後は、開発時のテストドライバーがハンドルを握る横に座ることができた。アルピーヌでは、テストドライバーの発言権がとても大きく、味付けなどのセットアップはほとんど彼らの手によるもの。驚いたのは、ほぼ全てのコーナーでリアタイヤを流しっぱなしにしてコースを駆け抜けたこと。左右に続くS字まで、ドリフトしっぱなしで切り替えしていた。聞けば、ドリフトしやすいようにわざわざグリップを落としてスライドコントロール性を高めたタイヤを採用しているのだという。サーキット走行でもタイムより愉しさを重視しているスポーツカーなんてなかなかない。

コーナーは意のままに車体が動くし、パワーがほど良いので思い切りアクセルを踏める。

開発が始まった当初、「ファン・トゥ・ドライブ」という言葉だけが開発陣に伝えられたという新型『A110』。完成形は間違いなく、その言葉を体現するクルマになっていた。走る愉しさを味わうためだけに作られたスポーツカー。こんなクルマをガレージに置けていつでも乗れることこそ、幸せなクルマライフの到達点だと思えた試乗体験だった。

スポーツカーにありがちなスポイラーなどが一切省かれたボディが潔い。
その秘密は車体の裏側にあった。車体全体をエアロパーツとして使うことで、空力性能とダウンフォースを両立している。
フロントにトランクはあるものの、ゴルフバッグなどはとても入らない設計。
エンジン後部にも、一応トランクは存在する。普段の買い物ならなんとかなるかも!?

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アルピーヌ『A110』