「就活に自己分析は不要」「同じ仕事を長く続けるのはリスキー」──あの経営者が語る、未来をサバイブするための人生哲学

なりたい自分を具体化せず漠然と抽象化せよ!
石の上にも3年……、だが3年以上いる必要があるかを考えよ。

多くの日本の大学生は就職活動を始めるときに、「自己分析」をするように言われると聞いた。そこで自分に向いた職業を見つけるという。そんな自己分析はしない方がましだ。たった20年ちょいしか生きていなくて、社会経験もない状態で何を自己分析するのか。

「社交的」で「人と接するのが好き」「コツコツと物事に取り組める」から、〇〇に向いている。それで自分の職を決めるのか? そんな状態で具体的な職業像もないだろう。アルバイトやインターンシップでの経験は、自分の将来を考えるには少なすぎる。

イメージだけで営業がいい、企画職がいいといっても、そこでイメージしている仕事の内容が正しいかどうかはわからない。考えるべきは、「向いている職業」ではなく「なりたい職業」、なりたい自分の将来像だ。将来像と言っても抽象的でいいのだ。若ければまだまだ可能性はたくさんある。

私は「リーダーになる」という目標があった。どんな会社の、どんな規模のなどといったものは具体的にイメージしていない。父が経営者であり、その姿を子どもの頃から見ていて、憧れていたせいかもしれない。ただ漠然と「リーダーになる」、そう考えていた。

だから、私は自分のキャリアを「経営者になるため」と考えてきた。社長になりたいだけなら、起業してもよかったが、それは経営者ではあるが私のイメージとは違った。まずは組織の中で選ばれ、勝ちのぼり、組織をリードすることをイメージしていた。

米国のビジネススクールを卒業したとき、ずっと憧れていた自動車メーカーからオファーがあったが、運悪く、自分自身が自動車事故に巻き込まれてしまった。しばらくは自動車を運転することが怖くなり、自動車メーカーへの就職は断念した。おおきな挫折だった。そのときになぜ経営コンサルティング会社に就職したのか。

経営コンサルティング会社なら、若くして多くの企業の経営の中核に触れることができると聞いた。その経験は自分が経営者になるために活きると考えたからだ。こういうと先を見越していたようだが、実際のところは、漠然とリーダーになりたい、そのためには経営コンサルティング経験は活きるだろうと意識したレベルだ。

もっともコンサルティングという仕事スタイルよりも事業会社でオーナーシップを持ってキャリアを築いていきたいと思うようになり、このファームでの短い経験の後、私のキャリアはずっと事業会社一辺倒になった。

なりたい仕事を具体化しないほうがいい。それは道をせばめる、可能性を削ぐことに等しい。

すでに就職して働いている人でも同じことが言える。今の仕事は10年後にあるのか。なくならないまでも、今の自分自身の価値が維持できるのか。いや、そもそも価値の現状維持で良いのだろうか、価値は上がっていくのかどうかを考えなければならない。そこに対応する方法はある。その業界のベテランにならないようにすることだ。

通常、経験を積みベテランになることは「いいこと」だとされている。それはその仕事に価値があるという前提による。その仕事の価値がなくなれば、ベテランにも価値はない。時間をかけて身に付けたスキル、それを活かす専門分野がなくなってしまっては身も蓋もない。残念ながら仕事がなければ、そのスキルは無用の長物なのだ。

だからこそ、今通用している武器に甘んじることなく、時代に合わせて持ち変えることができる武器を身につけるのだ。

「石の上にも3年」という言葉があるが、これは「どんなところでも、3年は腰を据えて頑張れ」というのが一般的な意味だ。ただ私は違う意味で考える。3年を目途に違う仕事をしていくのだ。理想を言えば3年ごとに違う仕事にチャレンジしていく。

これは転職しろという意味に限定されない。言葉を変えて言うと、仕事の幅を広げろ、と言うことだ。社内で違う部署への異動願を出しつづけることでもそれは実現できるだろう。国内で営業をやっているなら、海外への異動願を出す。営業から企画営業、人事から経営企画、国内経理から海外経理、経理から財務へ異動するなど、少し内容をダブらせて、違う仕事にチャレンジしていくとやりやすいだろう。

社内で自分の職種がずっとあるかどうかわからないのだ。国内営業一本鎗でキャリアを重ねていたら、自分の務める会社が国内事業から撤退してしまうかもしれない。そうなったときに会社は救ってくれるとは限らない。いきなり経験が全くない部署に異動になって面喰らう前に、自分から幅を広げておいた方がいい。

一つの仕事を長くやり続けるのは、実はリスクだ。同じ会社で同じ仕事を5年、10年と続けている人は、危機感を持った方がいい。今、社内では「この仕事は◯◯さんに任せれば良い」などと言われているかもしれない。社内でのポジションも明確で居心地もいいだろう。

だがその言葉を裏返せば「◯◯さんは、あの仕事しか出来ない」なのだ。仕事の幅が狭い、応用や発展がきかないと言う意味にもなる。いざ、その職種が不要と判断されたとき、会社は守ってくれない。なぜなら、終身雇用の慣習は既に崩れている。仕事のスキルに幅を持たせること。それが自分自身を守ることになるのだから。

伊藤嘉明(いとうよしあき)/X-TANK CEO。世界のヘッドハンターが動向を注視するプロ経営者。ジャパンディスプレイのCMOも兼任。著書『どんな業界でも記録的な成果を出す人の仕事力』(東洋経済新報社/1620円)など。

『デジモノステーション』2019年3月号より抜粋。