中国EVベンチャー「BYTON」はテスラの牙城を崩せるか。「CES2019」で見せた新世代モビリティサービスの革新性

 

今月のテーマ
#15 “BYTON” Can become “TESLA EATER”?

創業からわずか2年ほどで、プリプロダクション・モデルの製造にこぎつけたEVスタートアップ「BYTON」。その存在は、これまで日本でほとんど報道されてこなかった。2018年のCESで2台のコンセプトカーを引っさげてグローバルへのデビューを果たし、そして今年再び、CESの会場に戻ってきた。果たして、“テスラ・イーター”となるか?

“テスラ・イーター”となるか?5億ドルを調達した中国EVメーカー

自動車メーカーを創業する。そのことがどれほどハードルの高いことか、想像できるだろうか? 企業価値に換算すると、トヨタが1位で群を抜いており、2位にダイムラー、3位がフォルクスワーゲンと続く。EVスタートアップの騎手であるテスラが、アメリカの老舗自動車メーカーであるGMやフォードをようやく抜いて、3位に躍り出ている。

何が言いたいかというと、IT産業と比べて、自動車産業では、研究開発の期間が長く、多岐にわたる分野の専門家を雇う必要があり、生産設備への投資も多大だ。

つまり、自動車メーカーを創業するには、それなりにまとまった資金の調達が必要になる。EVスタートアップといえば、テスラが有名だが、あれほどの急成長株でも2003年の創業から5年経ってようやく『ロードスター』の生産を始めたほどだ。

しかも、初代『ロードスター』は、当時、パロアルト近郊にあったオフィスに隣接したガレージで、「ロータス」のシャシーをベースに組み立てられており、わずか2500台という限られた数が作られたに過ぎない。

しかしながら、「BYTON」は、これまでのEVスタートアップのものさしでははかり知りれないスピード感がある。ざっと“歴史”をおさらいすると、2017年に初期の資金調達であるシリーズAを実施し、同年9月に南京に工場を開設した。12月にアメリカ支社を開設し、ちょうど1年前、2018年のCESで初めてのコンセプトカー『M-BYTE』を披露した。

「BYTON」は、初の量産モデルとなる『M-BYTE』のプリプロダクション・モデルをCESの会場に持ち込んだ。EVゆえに、フォルクスワーゲン『I.D.』やBMW『i』などと比べられることが多いが、「BYTON」の利点はフルコネクテッドのスマート・カーであり、最初からシェアードやデジタル体験を視野に入れた設計となっている。欧米への輸出を視野に入れているため、衝突安全基準はユーロNCAPの5スターを満たす。車両価格は、4万5000ドル~。「BYTON」では、オプションや航続距離によって、顧客が選ぶ中心的な価格帯は6万ドル前後と予想している。2018年のCESで登場した『M-BYTEコンセプト』のセダンも、MPVに続いて量産モデルが登場する予定だ。

6月には、2つめのコンセプトカー『K-BYTE』をCESアジアの前夜祭で公開するとともに、シリーズBで5億ドルの資金調達を実施したことを発表。

さらに、10月には南京工場で100台のプリプロダクション・モデルの生産に漕ぎ着け、2019年内に30万台規模の量産ラインを立ち上げて、中国国内へのデリバリーの開始を宣言している。

加えて、「BYTON」は従来の中国車メーカーとも異なる。グローバル本社、R&Dセンター、生産工場を南京に置くが、デザインは上海、ソフトウェア開発は米サンタ・クララ、自動車技術開発はミュンヘンと、それぞれの開発に最適な地域に拠点を設置する。真の意味でのグローバル企業である。

「BYTON」のパートナーには、名だたる企業が名を連ねる。中国最古の自動車メーカーであるFAWは、1953年に中国で初めて創業された自動車メーカーだ。安徳時代(=CATL)はリチウムイオン電子大手で、2020年までにテスラのギガファクトリーを遥かに越える50GWh(!)の生産能力を備える予定。ボッシュは世界一の自動車部品サプライヤーであり、車載技術はもちろん、家電やスマートシティまで広く手がける。フォレシアは内装で強みを持つが、近年、クラリオンを買収した。アマゾン・アレクサとは、音声コマンドで連携する。自動運転については、グローバルでオーロラ、中国国内はバイドゥと手を組む。

ドライバーにも、他の乗員にも最究極のカスタマー体験を提供

その「BYTON」が、2019年のCESでも、新たな話題を提供してくれた。2018年に2台のコンセプトカーを引っさげてCESに殴り込みをかけたのは記憶に新しいが、実のところ、日本での報道は驚くほど控えめだった。しかし今年のCESでは、昨年より格段に会場が広くなり、『M-BYTE』の量産試作車が持ち込まれていたこともあって、日本からの取材陣も興味津々だった。

2019年中にMPV/セダンの『M-BYTE』の量産を開始する予定だ。全長×全幅×全高=4850×1940×1630mmのスリーサイズは、テスラの基幹モデルである『モデルX/S』と真正面のライバルだ。ただし、“後発”を逆手にとって、5G対応を前提としたコネクティビティ、Aピラーの端から端まで届きそうな48インチの大型モニターや、レベル3の自動運転の機能を搭載するなど、最新テクノロジーを満載する。

もう一台、2018年6月のCESアジアで発表したレベル4の自動運転の機能を搭載する『K-BYTE』も持ち込まれていた。こちらは、レベル4の自動運転の機能を搭載している。個性的なのは、従来の自動車メーカーがあえて隠そうとしていたLiDARのようなセンサーをあえて光らせて強調するなど、見た目でも強烈に次世代モビリティであることを主張する。

今回の「BYTON」の発表で注目すべきは、“電気モーターの性能や自動運転のレベルではなく、デジタル・ライフ”の充実が最も強調された点だ。

「今回、2つの重要な“プラットフォーム”を発表します。1つ目は、レベル3の自動運転に対応するEVの車台(=プラットフォーム)であり、2つ目は『BYTON Life』なるデジタル・プラットフォームです」と、Breitfeld氏(CEO)は語る。

右手はプレジデントを務めるDaniel Kirchert氏、左手はCEOを務めるCarsten Breitfeld氏。ともにドイツ人であり、それぞれ日産の高級車ブランドであるインフィニティの取締役、BMWの電動モビリティのブランド「iシリーズ」の開発を牽引した人物だ。今回のCESには登場しなかったが、中国側の共同創業者であるJack Feng氏は、ロールスロイスやBMWを中心に扱うディーラーネットワーク「ハーモニー・オート・ホールディングス・リミテッド」の会長だ。

自動車ギョーカイで“プラットフォーム”といえば、クルマの基礎であるシャシー(=車台)と相場が決まっているのだが、それと同時に、ITギョーカイにおける“プラットフォーム”であるアプリの動作環境までも独自開発をしたのだ。しかも、クルマを買ったあとも随時、オーバー・ザ・エアでソフトが更新されるから、従来のように「インフォテインメントが古臭くて、クルマまで嫌になる!」なんてこともない。

さらに言えば、「BYTON」のサービスの対象はクルマを買った人だけではない。スマホでIDを取得すると、ドライバーはもちろん、他の乗員もクルマとつながれる。具体的には、助手席や後席の人もそれぞれのスマホの音楽コンテンツから選曲できたり、アマゾン・アレクサによる音声コマンドでインフォテインメントを操作できる。

EV専用に開発されたプラットフォームゆえに、リチウムイオン電池をフレーム内に抱えこむ用に配置する。重量物が車両の中央に集まることで、走行安定性を高めることにも貢献する。1回の充電で走行可能な距離によって、電池の搭載量と価格が異なる。71kWhモデルはで250マイルを確保し、95kWhモデルは325マイルまで伸びる。

そして、顧客が使いこなしていくと、さらに「BYTON」側もAIを駆使して顧客の好みに寄り添う形で、“究極のカスタマー・エクスペリエンス”を提供する仕組みだ。

スマートEVのためバリュー・チェーンをグローバルで最適化する

果たして、「BYTON」は本当の意味でゲームチェンジャーになれるのだろうか? 再確認しておくと、「BYTON」は単なるEVスタートアップではなく、コネクテッドを前提に、デジタル体験の提供をビジネスモデルの核に据えているという点が新しい。

「私たちが描くビジネス・モデルは、従来の自動車メーカーとは違います。ハードウェアを売るに留まらず、アップルやサムソンようにデジタル・コンテンツを提供し、ユーザー体験を重視するビジネスモデルを目指しています。だからこそ、『M-BYTE』では、大型スクリーン、高速コネクティビティを搭載するなど、“車載スマート・デバイス”の機能を充実させました」(Breitfeld氏)

実際に、「BYTON」のユーザー・インターフェイスを体験してみた。運転席と助手席の前に48インチの大型ディスプレイが鎮座し、ステアリング・ホイールの背後にある7インチ・ディスプレイもかなりの存在感だ。『M-BYTE』にはレベル3の自動運転の機能が搭載されており、自動運転に切り替えると、エンタテインメントが表示される仕組みだ。

「BYTON」のチーフ・デザイナーを務めるBenoit Jacob氏はフランス出身。ルノーで「スポール・スピダー」をデザインした。BMWに移籍した後は、鳴り物入りで新設された電動モビリティの新ブランド「iシリーズ」を始めとするアドバンスド・デザインを担当した。

センター・コンソールに配置されるタッチパッド式のディスプレイは、車載機能の操作をするためのものだ。顔認証を始め、アマゾン・アレクサによる音声コマンド、ジェスチャー・コントロールなどでの操作ができる。もちろん、5Gへの対応が前提だ。

「BYTON」では、カスタマー・エクスペリエンスと技術開発の進歩を鑑みて、意味のあるイノベーションを目指すとしている。例えば、「BYTON ID」を取得すると、すべての席の乗員が「BYTON」のクラウドとつながる。スマホの楽曲を車載で聞くことができたり、音声コマンドにも連携できる。

ステアリング・ホイールには、7インチのパットが備わる。運転中でも、音声コマンド、ジェスチャーコントロールを使って、安全に車載機能を操作できる。

最後に、量産できるか? が気になる。創業当初から欧州の大手サプライヤーと協業し、さらに「BYTON」に投資した顔ぶれを見ると、中国最古の自動車メーカーであるFAW、先進インフラを手がけるTusホールディングス、リチウムイオン電池最大手のCATLと、スマートEVの関連企業が名を連ねる。

また、南京・グローバル本社に隣接して建設された最新のスマート工場の周辺に、国内外の大手サプライヤーとパートナーを招いている。驚くことに、「南京をスマート・マニュファクチャリングの一大拠点に成長させる方針」なのだ。

中国にオープンした「BYTON Place」では、実際の車両に触れるだけではなく、「BYTON」を通した体験ができる空間となっている。今後、各地に同様の施設を増やしていく方針だ。

グローバル本社、R&Dセンター、生産工場を南京に設置すると同時に、デザイン・センターは上海、自動車の開発はミュンヘン、ソフトウェアは米サンタ・クララと、それぞれの地域に適した開発拠点を設けて、最高の人材を集める。

南京に新設された生産工場では、2019年中に30万台の生産能力を持つ組立ラインを立ち上げる予定だ。

現在、「BYTON」では世界20カ国で1500人が開発に携わっている。“スマートEVのためのバリュー・チェーンをグローバルで最適化する”というBYTONの戦略は、従来の自動車メーカーとは一線を隠す、新たな時代のモビリティ・サービスを生み出すに違いない。

「地元中国からマーケットをスタートし、その後に、北米、欧州へと拡大します。北米ではカリフォルニアのようなEVを支援する法制のある地域、欧州ではノルウェーのようなEVのシェアの高い地域をターゲットに据えています。中国以外のアジアについても、市場性を考えています。日本も視野には入れていますが、右ハンドル市場ということもあって、まずは香港から導入して、日本という順番が適切でしょう」(BYTONプレジデント Kirchert氏)
川端由美(かわばたゆみ):自動車評論家/環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。International Engine of the Year選考委員なども務める。

『デジモノステーション』2019年3月号より抜粋。