声に出して読むと、言葉の面白さにグイグイ引き込まれる『世界はまるい』|親と子のブックシェルフ

本は未知なる世界へと連れていってくれる身近なアイテム。とはいえ、毎日たくさんの本が発売され、さらにはかつての名著とも併せると……その数は果てしなく、どう選んでよいものやら。“わが子のため、自分のため”に家に連れて帰ってあげたいとっておきの1冊──。今回は『世界はまるい』をどうぞ。

児童書なのに“子ども子ども”していなくて、本屋さんの書棚のなかでひときわ異彩を放つ1冊。それがこの『世界はまるい』だ。濃い藍色にローズピンクがやわらかく光っていて、クラシカルな雰囲気をまといつつもなんだか新しさを感じさせてくれるような……。ページをめくると、これまたローズピンクの紙にネイビーの文字が──それもちょっとクセのある、いえ、なんとも“読み進める”スピードを速めてくれそうな書体で綴られている。

物語の主人公はローズという小さな女の子。でも“小さい”と言いながらも、ローズは9歳。小さい子どもとは言い切れない年頃でもあって──と、冒頭を見るだけでも不思議な物語が詰まっていそうな予感を秘めている。

〜むかしあるとき、世界はまるくて、てくてくとことこ歩いていくとぐるっとひとまわりすることができました。〜

この一文ではじまるストーリーは全部で34章。「この本はたのしく読んでください。声にだして、2、3章ずつ、ひといきに読みましょう」と、作者であるガートルード・スタインが言うようにしてみると……。

たとえば、3章「びっくりおめめ」の一節を朗読してみる。

〜いつ ああ いつなの? ちいさなガラスペンさん おしえて いつ あのウサギは見えなくなるの? いつ ねえ イッツ・ア・ペン〜

そして、14章「イスをもって山にのぼる」も声に出してみる。

〜どんなにいっしょうけんめいかんがえたって、もっといいのがあるに決まっているけど、たかがイス、されどイス、イスはだいじだからよくかんがえなくちゃ。〜

はたまた、23章「夜」は……というと、

〜水はなにをするの? 水は落ちます。〜

と、はじまる。

作者が「意味は考えずに、ことばをすばやく読んでいきます」と促すとおり、とにかく声に出し、早口にしてみたり、呪文のように繰り返し唱えてみたり。読み聞かせるだけでなく子どもにも口にさせ、互いに読み合いっこをしてみると「言葉の響き」が持つ力にぐんぐん引き寄せられてしまいそう。もちろん、翻訳モノだから本来の音(おん)とは異なるのかもしれないけれど、本書は“言葉の実験”をした作者の意図を汲んで訳されたもの。

カバーを外した表紙に刻印されているのは「ROSE IS A ROSE IS A ROSE IS A ROSE」という作者のもっとも有名な詩の一節。これ「バラはバラはバラはバラ」と訳す。こんなふうに繰り返すことで、“バラという言葉には、あなたが知っているよりも、もっとたくさんのバラが咲いている、もっとたくさんの驚きが秘められているでしょう”と問いかけているのだとか。

ちょっと、作者=ガートルード・スタインについて説明をしておくと、彼女は20世紀初めのパリで活動した作家。いや、作家というよりはピカソやマティスを支えた人物としてのほうが知られているかも。この『世界はまるい(原題:The World is Round)』は1939年、スタインが64歳のときに書かれたもので、「80年も前に誕生したの!?」と驚かされる。

と、まあ、そうした細かいことはさておき、本そのものの凛とした美しさを感じながら、声に出すことによって、言葉のおもしろさや豊かさを感じ、抑揚させたり、声色を変えたりするなどして文章の楽しさを味わいたい。そして、いつかは原書を読み比べ……いや、語り比べたい。そんなふうに思わせてくれる、不思議な本だ。

『世界はまるい』(アノニマ・スタジオ)
ガートルード・スタイン 著
クレメント・ハード 絵
マーガレット・ワイズ・ブラウン 編集
みつじまちこ 訳
価格:1728円(税込)