令和10年まで着続けたい『10YC』の日常着|消費しないファッション

10年着続けたいと思える洋服を――そんな想いでモノ作りを追求するファッションブランド「10YC(テンワイシー)」。シーズン毎にトレンドを発信して、短いサイクルで消費をうながすアパレル業界において、長く着てもらうことを目標とする10YCは“異端児”ともいえる存在。そんな10YCの誕生背景について、洋服を作ることに対するこだわりについて話しを伺ってきた。
写真左から、後 由輝さん・下田 将太さん

―そもそも、10YCというブランドを立ち上げようと思った理由はなんだったのでしょうか。

下田:「僕はもともと5年間くらいアパレルメーカーで働いていました。そんなある日、当時ルームシェアをしていた友人に『1万円くらいするTシャツ、1回洗濯しただけでヨレヨレになったんだけど、お前の業界どうなってんの』と言われてしまい……。そのことをきっかけに、彼と後(うしろ)を合わせた3人で、後の地元の和歌山に旅行に行くがてら、モノ作りの現場を巡って自分たちが欲しいTシャツを作ろうとなったのがブランドの始まりです。

はじめは遊びの延長のような感覚でしたが、出来上がったサンプルの仕上がりが素晴らしくて感動したこと、そんなこともありこのまま大きな企業で洋服を作る意味が見出せなかったこと、起業をしたからといって死ぬわけではないと思ったことなどの理由から、2017年9月に株式会社10YCを創業し、11月からブランドとして正式に立ち上げて今に至ります」

―10YCという名前は、何を意味するのでしょうか。

下田:「ブランドを始めるとき、自分たちが作ったものをどれだけ長く着ていただくか、買って終わりではなく買ってもらってから関係性が始まるようなブランドにしたいと思いました。その中で、ひとつの目安として10年間というキーワードが出てきたので、『10 years clothing=10YC』という名前を付けました」

―先ほど、「このまま大きな企業で洋服を作る意味が見出せなかった」との話がありましたが、詳しくお聞かせいただけますか。

下田:「もともと働いていたアパレルメーカーでは、どんなに頑張って作り上げた洋服も簡単にセールにかかって消費されていく。自分たちは作り手側と細かいコストの交渉をしていたので、そんな状況にモヤモヤしていました。そうした中で作り手側が疲弊していく世の中ではなく、今までより豊かになれる、楽しくモノ作りができるようなブランド、仕組み、コンセプトって作れるんじゃないかなと思いました」

後:「当時は、上司にも『仕事がつまらないんで辞めたいです』と伝えるくらい本当に仕事が嫌でした。前の会社にいたときから作り手サイドだけ変えても無駄だな、同時に売り方も変えていかないと意味がないと思っていました。

売り方も含めて、モノ作りだと考えています。洋服の場合、誰かが着てくれないと作る意味がないし、売るためには作らないといけない。そのためには自分たちがブランドを立ち上げて、洋服を作って売るというのがベストな選択でした。企画するところからユーザーの手に届けるところまですべてのフェーズに関われるということも、ブランドを始めた理由のひとつです」

―大企業で洋服を作ることと、自分たちでブランドを立ち上げて洋服を作ることの大きな違いはなんでしょうか。

後:「ゴールが洋服を作ること、納品することではなくなったのは大きな違いですね。ブランドを立ち上げてからは、お客様に洋服を届けた上で長い期間にわたって愛用していただくこと、作ることから始まり、買っていただき、愛用していただくというロングテールでゴールを考えています。さらに現在は、モノ作りの良い未来を作るというビジョンもあります」

10YCが原価を公表するリスクと責任を担う理由

―10YCはWEBサイト上で製品の原価を公表していることも、ほかのファッションブランドとは一線を画している点ではないでしょうか。

下田:「そもそもが『何から何までも見せる』という10YCのコンセプトにも関わってきます。今まで過度なブラックボックス化をしてきたアパレル業界が、生産工場の弱体化、過重労働、低賃金を生んでしまったのではないかと思っています。それは、生産工程を公開することが良い悪いという問題は置いといて。

ただモノ作りには、こういう人たちが関わっていて、こういうお金がかかって作られているということを消費者が知らなくなり過ぎちゃっている。このへん(東京都・墨田区)には、メリヤスの工場がたくさんあり、昔からそういう町だったから、誰が糸を作っているか、誰が編んでいるかなどをみんなが知っています。モノ作りが身近な存在だったから、『この洋服だったらこれくらいの値段になるよね』というのが言わずとも分かっているんです」

―たしかに最近では農作物のトレサビリティは明確にされていますが、洋服がどのように作られているかを知っている、考えている人は少ないと思います。

下田:「SPAというビジネスモデルが登場したときは、無駄を省いていいモノを安く作るための仕組みだったのかなと思うのですが、どんどん売ることが目的となってしまい、どのように安く作って、早く届けるかしか考えられなくなってしまっていると感じます。その結果、お客さまはデザインと価格しか見えるものがなくなってしまった。

そして、現在は日本から工場が少なくなり、中国やASEANを中心に製造するようになっています。モノ作りが遠い存在のものになってしまった。そうすると店頭でしかコミュニケーションの場がなくなってしまい、それこそがモノ作りの疲弊を生んだと考えています。この部分をもっとうまく解決する方法があるんじゃないかな、うまく伝える方法があるんじゃないかなと考えたのが、原価を公表しようと思った大きな理由です」

―商売の裏側を見せるのは勇気が必要だと思いますが、いまの時代はそうした誠実さが問われているのかも知れませんね。

下田:「『この服がこういう風に作られているんです、だからこの値段なんです。』って1から説明することは、ものすごい大変なこと。単純に『1000円です』って売るほうがはるかにラクです。しかしそうした状況にアパレル業界が甘えてしまったからこそ、いまのような状況を招いてしまっています。

価格とデザインで勝負するしかなくなってしまい、どこも同じようなデザインになっている。価格についても、どのブランドもセールをやって差別化すらできていなくて、自分たちの根幹的な価値がなくなってしまっているように感じています。短期的な目線での売り上げでなく、どれだけ長期的な目線でこの業界を見られるかで、アパレル業界は大きく変わっていくと思います」

後編へ続く

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